第2話 台は裏返る

 中央キャンプでの生活も八日目になり、周りの人の顔が覚えられてきた。

 医療班のヤーナさん。

 優しい人で、献身的な介護をしてくれる。エルフの実情を知らないのか、エルフに偏った認識があるようだ。むしろそれが普通なのかもしれない。

 船長のオフランさん。

 これまた優しい人で、青い顔した私に酒を奢ってくれた。本国の物資を運ぶ大事な仕事をしている。

 新隊長のカリールさん。

 オリフ隊長が死んでから、隊長に必要な資格を持つものが居なくなったノース分隊に新しく来た人。元々は第二隊イースト分隊で隊員をしていたそうだが、隊員になる資格を持っていたため、急遽私たちの隊に所属することになったそうだ。凄い声が柔らかくて、戦えるのかと疑ってしまったが、2年の間エルフーンと中央キャンプ確保の為に前線で戦っていた第六隊から第二隊に異動したようで、歴戦の戦士だった。

 そうしてまた人数が集まった第一隊ノース分隊の次の作戦が決まった。


 敵ゲリラの索敵だ。

 エルフ達は正規軍を持たず、森の戦士と呼ばれる原始的な戦闘部隊を持っていた。しかしそれでは我々に敵わないと踏んだのか、各地で小型の戦闘部隊を結成。

 各地で我々の様な分隊を奇襲し、大きな被害を被ることもある。


 今回は第一隊サウス分隊が原因不明の消失が確認され、第一隊イースト分隊の捜索によって全滅が確定した。

 本部はこれをゲリラと推定し、我々に索敵。及び殲滅作戦を指示したそうだ。

 あくまで索敵であり、殲滅は可能と判断したら行うらしい。二度目の分隊の全滅を恐れたのだろうか?

 出発は二日後に決められ、私も準備を進める。

 前回の作戦で剣が錆びてしまい、新しい剣を受け取った。

 武器も装備も準備が完了し、出発まで一日となった。

 朝起きて、ベッドから起き、薬を飲んで外へ出る。

「………は?」

 燃え盛る中央テントに死体だらけの地面。

 控えめに言っても地獄だ。

 音を立てないように表に出る。

 二人のシルエットが見える。片方は……エルフだ。もう片方は新隊長のカリールさんだ。

「ちょっちょっと待ってくれ!誰」

 ザン!っと首が落とされる。話は聞いてくれないようだ。

 現実に私の認識が追いついてきた。

 これは…ゲリラの襲撃か?

 ピィーー!

 笛らしき音が鳴り響く。逆に冷静になっていたが、これは…と思考を巡らせていたら、突然目の前が暗くなる。

 何故か背中が熱い。意識が…あ…。


 木の天上、薪の音、確実に知らない場所だ。

 ここは何処だ?

 起き上がる背中がズキズキと痛むが我慢して起き上がって周りを見渡す。暖炉?とフサフサのヒゲが 生えてる爺さんが……エルフ!?

「誰だ!」

 ベッドから跳ね起き大きな声で言う。

「何じゃ何じゃ?争いはよそでせい!」

 エルフの爺さんもカサカサした声で返答する。

 体に巻かれた包帯らしきものを見て、

「包帯?俺を助けたのか、どういうことだ?」

「なんじゃ、手当したのがそんなに嫌だったか?火事かとおもって外出たら、火が見えたんじゃ。そこでダラダラ血を流して倒れておったのがお前じゃ。他の死体は目が虚ろで助かりそうもないが、お前はそうでもなかった。斬られたばっかと思って止血して、処置して寝かしておったんじゃ。まぁあそこが燃えとるとなると、多分儂は敵にしかみえないのなハッハ」

「今の説明で何となく現状が掴めた。つまり俺を助けてくれたのか…すまない感謝する」

「なんじゃ突然礼儀をわきまえおって、別によい。先も長くない儂の善行が一つ増えただけじゃ。礼はいらんぞ。神は儂をきっと聖樹に導きなさるぞ。ハッハッハ」

「聖樹?」

「…儂らの神の言い伝えじゃ。気にするな」

「そうじゃお前さん帰り方はどうするんじゃ?」

「帰る…か。私のような人間が国へ帰っていいものか…」

「卑屈じゃな。まぁそういう時期もある。そこの森を抜ければ街がある。あそこなら人間も生活は出来る。安全は保証できんがな。まぁその胸のバッチは外しておけ、殺されるぞ」

「……何から何まで感謝する。助かった」

「ほれほれさっさと行け!そこに街で使える金を少しと果物を5つ入れておいた。食ってもいいぞ。」

 お金と果物が入っているという袋を持って扉を開ける

「本当に感謝する」

 取り敢えず街とやらに向かおう。

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