エピローグ それぞれの結末③
「ふあああ、良く寝た」
僕は教会の中にある私室で目を覚ました。既に日は高く昇っていて、強い日差しが窓から照り付けていた。
「お目覚めでしょうか。おはようございます、ユーリ様」
「あ、ミーナ。おはよう。今日もよろしくね」
僕が彼女に挨拶をすると微笑みを浮かべながら、朝の支度を始める。そんな平和な一日の始まり――。
「良く寝た。じゃありませんよ。いつまで寝てるんですか。もうお昼ですよ。まったく、聖女の仕事もしないで、毎日、毎日、自堕落な生活を……」
「えっ? 何言ってるの、仕事はしばらくお休みだよ」
僕はロベルトに国王との約束事を記した紙を見せる。その内容を読んだ彼の手が怒りに震えていた。
「な、な、なんという約束を。もう許せません。今日こそ、あの男の命日にしてやるわぁぁぁ」
叫びながら、意気揚々と出て行こうとするロベルトを呼び止める。
「あ、そうそう、今日から一か月ほど、旅に出るから、後はよろしく頼んだよ。もちろん、ミーナも一緒に来るよね?」
「はい、どこまでもお供いたします」
ミーナが付いてきてくれると、快く言ってくれた時、窓からファヴィが入ってきた。さすが僕の番、タイミングまでピッタリだった。
「ユーリよ、迎えに来たぞ。準備はいいか?」
「もちろん、それじゃ行こうか」
僕とミーナがファヴィの背中に乗って飛び立とうと――。
「「ちょっと待ったァァァァァァァァ」」
二人の叫び声が響き渡った。声のする先にはアークとエミルが窓の外、近くにある木の上に立っていた。
「君たち……。いつから仲良くなったの?」
「「仲良くなどなってない」」
完璧に声をハモらせる二人は、どこからどう見ても仲良しだった。
「俺も付いていくぞ。旅先と言えば、出会いがつきものだからな」
「み、みみみ、ミーナさんが行くなら、俺だって行くよ」
相変わらずの二人だった。というか、エミルはいい加減、ミーナとくっついてしまえばいいのに……。そう思いながら、ミーナを見たら、エミルを蔑むような目で見ていた。
「これは……。脈なし? エミル、頑張ってね」
「くくく、お前たちの健闘を期待しているぞ」
五人の中で唯一、付き合っていると言えるだろう僕たちは二人を心から応援していた。しかしアークとエミルには、僕たちが煽っているように見えたらしく、ぷりぷりと怒っていた。ぎゃあぎゃあと騒ぎ続ける二人をなだめると、僕はミーナの方を見る。
「せっかくエミルも来てくれたし、ミーナはエミルの方に乗ってくれない?」
「ユーリ様のご命令であれば……」
僕の言葉に、ミーナは表情一つ変えることなく、エミルの背に乗り移った。自分の背中にミーナが乗ってくれたことで、エミルはとても嬉しそうにしていた。一方のミーナは相変わらずの無表情だったが、彼を見つめる彼女の目が優しいまなざしになっていたのを僕は見逃さなかった。
彼女はエミルの背を軽く撫でながら「それじゃあ、よろしくお願いしますね」とつぶやいていた。どうやら、ミーナもエミルのことを悪く思っている訳ではないようだけど、ミーナも人を好きになったことが無いのだろう。彼女の普段の表情は、エミルのことに興味が無いというよりは、どうしたらいいか戸惑っているようにも見える。そう考えると、意外と二人がくっつくのも早いかもしれない。
「それじゃあ、行こうか」
「「「はーい」」」
僕の号令でファヴィとエミル、そしてアークが飛び立った。青空はどこまでも澄み切っていて、まるで僕たちの未来を暗示してるようだ。
「楽しい旅になりそうだ」
「そうだな」
僕とファヴィは頷き合うと、大声で笑った。
その頃、置いていかれたロベルトは一人、地団駄を踏んでいた。
「まったく、どいつもこいつも好き勝手しやがって……。もう許せません。俺も好き勝手にやらせていただきます」
そう宣言したロベルトの背後からヒッショーネが声を掛ける。
「ロベルト大司教、こちらの仕事が溜まっております。聖女様が休暇に入られましたので、大司教の方で処理をお願いいたしますね」
今日も教会にはロベルト大司教の声が元気に響き渡っていた。
タイトル詐欺の聖女は平穏に引退したい ケロ王 @naonaox1126
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