第十話 魔界と王国をつなぐ聖女③
その頃、僕たちはドラゴンテイルの街で、到着する予定の魔王討伐隊を待っていた。
「あ、来た来た。おーい。こっちこっち」
「お、おま……。集団行動の和を乱すんじゃない。以後は、俺の命令に絶対服従だぞ。分かったな」
「はーい、それじゃあ。全員撤収で」
魔王との和解が成立した以上、魔王討伐隊は撤収しても問題無いはずなので、彼らに撤収と伝える。しかし、それを聞いたカイルが怒りだした。ホントに王族って気が短いな……。贅沢し過ぎでカルシウム不足なんじゃないだろうか。
「勝手に命令を、出すんじゃ、無いッッッッ。まったく……。この討伐隊のリーダーは俺だ。勝手な判断は許されん」
「まったく……。はいこれ、お役所仕事しかできない王子だと無能って言われるよ?」
魔王からの親書をカイルに差し出すと、ひったくるように取っていった。そして、それを開いて中身を読んでいく。読み進むたびに手の震えが全身に波及していって、怒りに顔が歪んでいく。
「これは、どういう、ことだッッッッ。ちゃんと説明しろッッッッ」
「えーっと、早く着いた僕たちが、先に魔王に会ってきて、和解してきました。なので、討伐する必要はなくなりました。ということで、解散です」
「独断専行した上に、勝手に和解しただと……。ふざけるなッッッ」
剣を抜いて僕に切りかかろうとする王子を、クロードが背後から羽交い絞めにして止める。勇者であるカイル王子をもってしても、彼の羽交い絞めを振り切るのは難しいようで、しばらく藻掻いていたが、次第に大人しくなった。
「もう、そんなに怒らなくてもいいじゃない。そもそも、魔王が引きこもっていて、城の扉が閉まっていたんだからね。そんな状態でどうやって魔王の所に行くつもりだったわけ?」
「それは、この俺の聖剣で扉ごと斬ってしまえば済む話だ」
「そのなまくらの剣では無理だと思うがな。我に試してみるか?」
「ふん、後で後悔するなよ。真っ二つにしてやるぁ」
売り言葉に買い言葉。怒りに任せたカイル王子の斬撃は、しかし、ファヴィが軽く横から刃を叩いた瞬間、ぽっきりと折れてしまった。
「バカな、これは聖剣だぞ? そう簡単に折れてたまるかぁぁぁ」
「残念だが……。それは聖剣ではないぞ。多少の付与はされているようだが、ただの鉄の剣だ。そもそも、聖剣は選ばれた者にしか扱えん」
蹲って折れた剣を見ていた彼は、ファヴィの言葉を聞いて悔しそうに顔を上げた。
「俺が、俺が選ばれた勇者なんだよぉぉぉ」
彼の悲痛な叫びが木霊する中、魔王討伐隊の面々は、撤収の準備を始めていた。意外とみんなドライなのね……。
「そう言えば、あの剣の付与って」
「ああ、想像ついているだろうが、あの大司教が作ったのだろうな。どうせ聖剣を持ってこいって言われて、苦肉の策で作ったんだろうけど。やっつけ仕事過ぎるな」
なるほど、ロベルトなら無理難題を押し付けられてもおかしくないだろう。そして、雑な仕事をするのも平常運転なので、僕もあっさりと納得する。
「そういう訳なんで、これから王都まで飛んでいくので、皆さんは温泉でも浸かってゆっくりしていってね。費用は……カイル王子にたかってくださいね」
微笑みながら、さりげなく温泉を勧めると、魔王討伐隊の人たちから歓声が上がる。この調子だと、お土産の『りゅうのたまご』の売上も期待できそうだ。
「それじゃあ、行ってきますから。待っていてくださいね」
僕はカモ、じゃなくて、魔王(略)隊の皆さんに手を振りながらドラゴンテイルの街から飛び立った。ファヴィの背中に乗って飛んだおかげで、翌朝には王都へとたどり着いた。
「みんなをあんまり待たせるのは良くないかな。直接王宮に向かおう」
少しでも時間短縮するために、僕たちは飛んだまま王宮へと突撃した。そのまま、謁見の間の近くの窓に乗り付けると、謁見の間へと向かう。朝の王宮は騒がしく、多くの兵士たちが、あちこちを走り回っていた。
「聖女様、こんな朝早くに何の御用でしょうか?」
「魔王と決着を付けてきましたので、陛下への報告に参りました」
「なんと、それは素晴らしい。それで……カイル王子は?」
「彼は……残念ながら……」
カイル王子は魔王討伐隊とかぶち上げたけど、結局何もしないまま事態は解決し、彼らは温泉を楽しんで帰ってくる予定だ。だがしかし、カイル王子の目的である魔王討伐は不可能となったことで、残念ながら功績を上げることはできなくなった。
「そうですか……。わかりました。国王も間もなくいらっしゃいますので、中でお待ちください」
衛兵が悲痛な表情で謁見の間の扉を開ける。僕たちは中に入って、いつもの場所で跪いて待つことにした。しばらくして、国王が入ってきて玉座に座る。
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