第九話 出撃、魔王討伐隊④
「と、とりっくおあとりーと。ごはんをちょうだい」
弱々しい声で僕に言ってきた子供は、見るからに痩せ衰えていた。そして、彼女の行動によって、他の子供たちも気付いたのか立ち上がって僕たちの方へと向かってくる。一方で、大人たちは僕たちを見て、震えながら家の陰に隠れてしまった。大人たちは子供たちを連れて行きたかったんだろうけど、そんな余力も無いようで、隠れながら様子をうかがっているだけだった。
「「「とりっくおあとりーと。ごはんをください」」」
僕は魔王討伐隊で支給された干し肉や乾パンなどの携帯食料と、お菓子を子供たちの前に広げる。すると、我先にと食料を奪い合おうとしたので手で制止する。男の子も何人かいたけど、みんな衰弱しているので、非力な僕でも抑えるのに支障はなかった。
「待って、十分にあるわけじゃないけど、ちゃんとみんなに平等に分けてあげるから、奪い合ったりとかしちゃダメだよ。はいはい、そこに横一列に並んでね」
そう言って、子供たちを一列に並べると、彼らの前になるべく均等に食料やお菓子を渡していった。それを食べて良いのか、と僕の方を見てくるので、笑顔で頷くと、貪るように食べ始めた。そんな子供たちを見ながら、全員に話しかける。
「今日は、これだけしか持っていないけど……。また、すぐに持ってきてあげるから、すこーしだけ待ってて」
僕の言葉に、子供たちの顔が緩んでいく。中には泣きながら抱き合う子供もいた。大人たちも、子供が食べ物を食べても平気な様子を見て、わずかに警戒心を残しながらも、僕たちの方にやってきた。
「ありがとうございます……。見ての通り、この魔界では食べ物が育たず、みんなが飢えております。人間とは敵対していると教わっており、聖女様も我らを害そうとしていると思っておりました。しかし、こうして子供たちに食べ物を分けてくださるとは……。まさしく、あなたこそが伝説の魔界に降り立ちし聖女様でございます」
大人の中でも一番、年を取っていそうな人が、跪きながらお礼を言ってきた。
「魔界に降り立ちし聖女って、魔界の巫女とは違うんですか?」
僕は魔王教の人たちが言っていた不名誉な二つ名を連想してしまったので、聞いてみることにした。
「巫女様とは閉ざされた魔界を開いて、新たな風を呼び込む方でございます。聖女様は、巫女様の中でも我々に救いをもたらしてくれる偉大なお方でございます」
どうやら、彼らにとっては巫女によって封印を解かれたあとに、新たな風という魔王討伐隊によって魔王が討伐されて、新しい体制が作られる、ということらしい。外からやってきた人間である僕が、彼らに施しをしたせいで、聖女だと勘違いされてしまったようだ。
「とりあえず顔を上げてください。あなたの気持ちは分かりますが、まだ、聖女と呼ばれるには未熟者です。今日は、これから魔王の所に行きますので、食料の方は後日ということで大丈夫ですか?」
「なんと、まさか魔王様と決着をつけるおつもりですか? それもお二人で……」
決着をつける、という意味ではそうなんだろう。僕たちを見て拗ねてしまった魔王を立ち直らせるという意味では決着をつける、と言うのは絶妙な表現だった。
「そうですね、正直うまくいくかは半々、というところですが……」
しかし、ああいうタイプのヤツは、一度でも拗ねると機嫌を直すのが難しいことが多いんだよね。気休め程度で『りゅうのたまご』を持ってきたんだけど、子供扱いされたことで、さらに悪化する可能性があるので、出すときはタイミングを見計らわないといけないな。
「そんな、魔王様は我らの中でも飛びぬけて強い方です。お二人では危険でございます」
「大丈夫ですよ。まずは話し合いで何とかするつもりですから。それにいざとなったら、彼がいます。こう見えて、彼は魔王より遥かに強いんですよ」
「そんなバカな……。ですが、聖女様のことですから、事実なのでしょう。我々は、ここで聖女様のご無事を祈ることしかできませんが、ご武運をお祈りしております」
そう言って、悲痛な表情のまま祈りを捧げる彼らを見て、僕はドン引きしていた。そもそも、今回の目的は拗ねてしまった魔王のご機嫌取りだ。その時に癇癪を起すかもしれないから、ファヴィの力を借りることになる可能性はあるけど、別に本気で戦う訳じゃないんだよ。でも、僕たちが説得に成功することを祈ってくれていることについては素直に感謝しておくことにした。
「ありがとうございます。それでは行ってきますね」
僕はファヴィの背中に乗ると、魔界の空へと舞い上がる。と言っても、魔界はそれほど広いわけでもないため、魔王城までは五分とかからなかった。
「予想通り、城門が閉まってるね」
「当然だろう。引きこもっているのだから、開けっ放しにする道理はあるまい」
「そりゃそうか。これって、魔王討伐隊はどうするつもりだったんだろう」
「わからん。しかし、何か方策があるのだろう」
ファヴィはそう言うけど、正直なところ、何も考えていない可能性の方が高かった。ゲームとかだと魔王城は常に扉が全開なんだけど、城にする意味が無いんじゃないだろうか。
「まあ、考えていても仕方ないよね。とりあえず、魔王の所に直行しよう」
「よし、あの一番上の窓のところから入るぞ」
そう言って、ファヴィは魔王城の一番高い所にある窓に突撃した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます