第九話 出撃、魔王討伐隊③
翌朝、前日の殿下のご乱心のせいで完全に寝坊してしまった。宿のチェックアウトの時間に起こされて、慌ててロビーに行くと全員集合していた。
「遅い、弛んどるぞ。まったく、聖女のくせに」
大きなお世話である。そもそも寝坊したのはお前のせいだ。まったく、この王子は魔王討伐する気があるのだろうか疑わしい。もっとマジメにやって欲しいんだよね。
「いよいよ、今日はドラゴンテイルの街へたどり着く予定だ。そして、明日は魔界へと入る。総員、心の準備はよいな?」
「「「おおお」」」
一同、気合を入れているけど、魔界に入るのは明日なんだよね。これだと、僕の領地が魔界みたいじゃないか。気合を入れたカイルたちば馬車に乗り込んで、街を出発する。
「いってらっしゃーい」
僕はそんな彼らを笑顔で見送った。
「いい加減にしろ。お前も行くんだよ」
「いや、行くって。と言っても、今日はドラゴンテイルまでじゃないか」
「だから、お前も行くんだよ。何、しれっと見送りしようとしているんだ」
別に見送りしても夜に街に着いていれば問題ないはずなのに、なぜ怒られなきゃいけないんだろうか……。
「別に、見送っても、街に着けばいいんでしょ。ファヴィ」
僕がファヴィの名前を呼ぶと、巨大な黒竜が僕の目の前に降り立った。
「もういいのか?」
「うん、今日の夜にドラゴンテイルの街まで着けばいいはずだよ」
「一時間もかからんと思うが、少し早いんじゃないか?」
「仕方ないじゃない、あそこの王太子殿下が急かすんだもん」
僕の言葉にファヴィがカイルを睨みつけると、流石の彼も恐怖で怯んでいた。
「そういうことだ、先に街で待っているが、良いな?」
「もちろんでございます。聖女様をよろしくお願いします」
いまだに恐怖で声が出ないカイルに代わって、クロードが答える。それを聞いて、ファヴィは僕を背中に乗せると大空へと飛び立った。
「アイツらは良いのか?」
「問題ないでしょ。どうせ昼間は馬車に乗ってるだけだしね。それに一足先に魔王に会っておかないと……」
「別に、アイツらと一緒でも良いのではないか? 原因はわからんが、立ち去る前の感じからすると、どうせ魔王城に引きこもっておるしな。何もしなくても一か月は出てこないだろう」
ファヴィは分からないと言っているけど、魔王が立ち去った原因は明らかに僕とファヴィが原因で間違いないだろう。あの様子から察するに、かなり拗らせているようだし、先手を打って動いておいた方がいいに決まっている。
「あ、その前に街に寄って。手土産を買ってから行こう」
魔王には一刻も早く機嫌を直してもらわないといけないので、僕は折角なので、『りゅうのたまご』を手土産にするために購入した。大丈夫だとは思うけど、念のために氷の魔石も購入しておいた。お菓子に使うには手痛い出費だけど、いざ開けてみてドロドロに溶けていたら、機嫌を直すどころの話では無くなってしまうだろう。
「よし、それじゃあ、早速行こうか」
僕は再びファヴィの背中に乗ってゲートへと向かう。飛んでいくと意外と近くにあるようで、十五分ほどで到着してしまった。
「それじゃあ、中に入ろっか。魔界って、どんな所なんだろう……」
「さあな。我も中に入ったことは無いから分からんが。生きていけないような場所ではなかろう。まあ、すぐに分かることだ」
「そうだね。それじゃ行くよ」
魔界のゲートを抜けると、そこはジャングルだった。日差しが強いわけではないんだけど、湿度がメチャクチャ高くて、ジメっとしていて蒸し暑い。そして、そこら中にサトウキビやヤシの木、カカオの木が自生していた。
「何これ……。こんなの、チョコレート作り放題じゃないか……」
「これは見たことないが、何だ?」
ファヴィはヤシの木を差して聞いてきた。チョコレートを作る時には使わなかったけど、これはこれで使い道の多い植物なんだよね。
「これは、ヤシの木って言って、あの実の中に水が入っているんだ」
「ほう、ちょっと取ってみるか」
そう言って、ファヴィが難なく実を二つ取ってきた。そして、実の上の方だけキレイにスパっと切断すると、中にはココナッツウォーターがたっぷりと入っていた。僕たちは、それを飲んで喉の渇きを癒した。
「なかなか美味いな。これはこれで悪くない」
「そうだね。でも、この実はこれだけじゃないんだよ。実の中にある白い部分を取って、ミルクを作れるんだ」
そう、ちょっと香りに癖はあるけど、ココナッツミルクはミルクの代わりに使うことができるので、カカオとココナッツとサトウキビでチョコレートの材料が揃ってしまう。まさに魔界はチョコレートのためにあるような場所だった。
喉を潤した僕たちは先へと進む。すると、小さい村のような場所に辿り着いた。そこの人たちは魔王と同じように人型だけど明らかに人とは異なる外見をしていた。彼らは、みんながみんな生気を無くしていて、ボーっとしているような感じだった。しかし、僕の姿を見つけた子供たちの一人が弾かれるように僕に向かってくる。
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