第九話 出撃、魔王討伐隊①
馬車に乗って、僕たちは再び王宮へとやってきた。王宮の前で馬車が止まり、案内の人についていって、前にも来た謁見の間に案内される。門番の人が重々しい扉を開けると、見慣れた、と言っても二回目だけど、赤いカーペットの奥に派手な玉座があり、いつもの国王が座っていた。
「よくぞ参った。救国の聖女よ」
「それは人違いですね。ぼ……私は何もしていませんよ」
勝手に救国とか付けないで欲しいんだが。そもそも僕とファヴィが煽ったせいで、魔王が勝手に凹んで逃げただけである。やれやれ、僕としては勝手に期待値ばかり上がる状況は勘弁して欲しいところなんだけど……。
「謙遜せずともよい。ワシは優秀な王だからな。結果が全てを物語っていると分かっておるのだ。ゆえに、王都を襲撃した魔王を撃退した聖女の功績は計り知れない」
この国王、自分で優秀だって言っちゃってるし……。結果は全てを物語っているかもしれないんだけど、そんな上司なんて僕としての願い下げである。
「ダメだね。全然ダメだね。結果しか見ないなんて、上司としては無能でしかないよ。偶然、いい結果が出たからって努力していない人間を評価するような上司はいらない。確かに魔王は帰ったけど、それは偶然、魔王が帰るところでぼ……私が居合わせただけなんだよ。そんな偶然を功績と言ってしまったら、誰も付いてこなくなるよ」
僕は国王のダメさ加減を見かねて、親切にアドバイスをしてあげた。だが、その親切心は彼には届かなかったようで、メチャクチャ怖い顔になっていた。脇に控えている家臣の人たちが「落ち着いてください、相手は聖女様です」と言って必死になだめているのが滑稽だった。しばしの寸劇を終えて、やっと落ち着いたのか、国王は椅子に座ると再び厳かに話し始めた。
「まあ、いいだろう。今回は偶然だった、ということで、褒賞の方は据え置きとするが、よいな?」
「全然いいですよ。これ以上貰って、後で倍返しだ、とか言われても困りますからね」
僕が正直に伝えると、どうも国王は与えた褒賞を返せと言うような国だと思われたことに憤慨していたが、すぐに深呼吸をして落ち着きを取り戻した。ホントに、この国王は怒りっぽいな。血圧上がって早死にするんじゃないかな。
「まあよい。そう言うことであれば、この話はここまでだ。そして、もう一つの話だが、聞いての通り、これから魔王討伐のために部隊を編成する。それに聖女も参加するのだ」
「えっ、嫌ですけど……」
何もできない僕に何を期待しているんだろうか。だが、丁寧にお断りしたはずなのに、またしても国王はキレそうになっていた。その様子を僕の後ろから見ていたロベルトがこっそりと話しかけてくる。
「前も言いましたけど、聖女は付いていくだけでいいんです。何もしなくても問題ありませんから、適当に話を合わせてください」
やれやれ、仕方ない。そこまで言うなら、付いていくだけだぞ。
「わかりました。付いていくだけになりますけど、参加しますね」
「分かれば良い。では、魔王討伐隊のリーダーとなる勇者のカイル第一王子だ」
国王の言葉を受けて、炎のような赤い髪をなびかせ、銀色の鎧を身にまとった青年が前に進み出る。
「俺が魔王討伐隊を仕切るカイル・フォン・イリアスだ。俺の言うことは絶対だからな。お前たちは従うだけでいい。分かったな」
「チェンジで」
唐突に出てきたと思ったら、僕が一番苦手な俺様系王太子殿下だった。こういうタイプって会社によくいたパワハラ上司に近いんだよね。当然ながら、そんなヤツの下に付きたくなどないので、僕はチェンジを要求した。
「貴様、俺の言うことが聞けないのか」
「いえ、ちゃんと聞きましたよ。その結果、チェンジで、ってことですよ」
聞いていないなんて、失礼なヤツである。話を聞いたから、チェンジだって言っているだろう。これだから王族のボンボンは困るんだよね。
「お、おのれぇぇぇ、言わせておけば。だが、この決定は覆らん。お前も俺に従う以外の選択肢はない。諦めて俺の手足のようにこき使ってやるから覚悟しろよ」
そう言って、奥に行ってしまった。まったく、大人気ないヤツである。そもそも何もできない僕をこき使ったところで、何もできないんだけど、何をしたいのだろうか……。
「魔王討伐隊って、何を準備すればいいんだろう……」
なし崩し的に魔王討伐隊に入ることになったけど、何を準備すればいいか想像も付かなかった。
「ここは、かつての遠足とか修学旅行の記憶を……。旅のしおり……は無いので、おやつだな。どうせ他に持っていくものないし、たくさん持っていこうかな」
僕はリュックにありったけのお菓子を詰め込んだ。三百円ルールとかあるけど、全て貰いものなので、実質ゼロ円だから、いくらでも詰め込める。バナナの例外ルールなんて考える必要すら無いのは、生まれて初めての経験だった。僕は、これでもかとリュックにお菓子を詰め込んでいく。そして、詰め込んでいく度に、テンションが上がっていった。
「ふふふふ、これだけ入れてもゼロ円。もはや僕に不可能などない」
そうして、ギリギリまで詰め込もうと、夜遅くまで粘った結果、そのまま寝落ちしてしまった。
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