第七話 ハロウィーンに暗躍する魔王教④
「「「魔王様」」」
その男を見た魔王教の連中は一斉に跪く。しかし、魔王は彼らになど見向きもせず、周囲を見回すと、僕の方、正確にはファヴィの方を見た。
「む、ファーではないか。久しいな……。そこにいる女は何者だ」
「もう我はファーではない。ファヴィと呼べ。そして、ユーリは我の番である。お前には分からんだろう。我の妻になる者だ」
「な、何だと。貴様、俺を裏切るつもりか。あの血の誓いを忘れたとでも……。それに、イリアス聖教、ひいてはイリアス王国に恨みを持つ同士ではないか。それすらも忘れてしまったと言うのか?」
「血の誓い? 何だ、それは。王国については、隣にユーリがいるそれだけで十分だろう」
ファヴィは当然のように僕が大事なようだった。しかし、魔王は王国だけでなく、教会にも恨みを持っているようだ。二人の関係はもはや、かつての友ではなく、王国――ファヴィにとっては僕だけなんだろうけど――を巡って敵対する形となってしまった。その二人が睨み合う――と思ったんだけど、なぜか魔王は僕の方を睨みつけていた。
「くそっ、この裏切り者め……。俺だって、俺だって……。許せぬ。かくなる上は俺だけでも王国を滅ぼして、かつての屈辱を晴らしてやるわ」
魔王の言葉によって、まるで合図したかのようにゲートから魔物が大量に出てきた。
「ふはは、さらばだ。俺はやるぞ。ファヴィィィィィ」
魔王は王都へと向かって飛び立っていった。一方、僕たちはゲートから現れる大量の魔物の対応に追われていた。もちろん僕は戦えないので、ファヴィの後ろから応援しているだけなんだけどね。
「ふん、この程度の魔物。敵ではないわ」
「まって、ファヴィ。ちゃんと手加減してよ」
「ふふっ、そんなの当然だ。だが、数が厄介だな」
そう言いながら、襲ってきた黒い犬の首をへし折る。だが、その間にもゲートからは魔物があふれ出していて、手加減しているファヴィだけでは少し厳しそうだ。
「ボクたちを忘れちゃ困るな。総員、巫女様に指一本触れさせるなよ」
「「「おう」」」
ニートの号令に従って、魔王教の連中が魔物に襲い掛かる。
「なんで、魔王教って魔王や魔物を信奉しているんじゃないの?」
「ボクたちが信奉しているのは魔王様だけだ。魔王様から世界の半分を貰って、ボクたちの楽園を作るためだからな。魔物に用はない」
どうやら魔王教っていうのは、魔王から世界の半分を貰うことを目指す組織らしい。だけど、さっき魔王は見向きもしていなかったんだけど……。だが、彼らの加勢により、瞬く間に魔物は減らされていき、五分足らずで全滅させることができた。
「やっと片付いたか。やれやれ、本気を出せないのも面倒だな……」
「そういえば……。封印壊しちゃって、ゴメン」
「どうした、唐突に」
先ほど封印を壊してしまった時、ファヴィが呆れたような顔をしていたのが頭から離れなかった。僕自身、いまだにファヴィの番というのを受け入れることができないんだけど、それでもファヴィに呆れられたくないと思い始めていた。
「えっと……。さっき封印壊した時、ファヴィが呆れたような顔してたから、気になっちゃって……」
遠慮がちにそう言うと、とても嬉しそうな表情をして盛大に笑い出した。
「ふははは、あの時のことか。あれはユーリに呆れたのではない。あの封印をかけた男に呆れたのだよ。ヤツは『俺の封印は完璧です。誰にも壊すことはできないでしょう』などと豪語しておったからな。昨日はああ言ったが、別に我としては丸っこいユーリでも好きだから問題ないぞ」
「そうなんだぁ。よかった。ファヴィに嫌われなくて……」
「ふふっ、それは我のことを少し受け入れてくれたってことかな?」
僕はファヴィに嫌われていなかったことに安堵した。そのせいか気が緩んでいたのだろう。ファヴィが微笑みながら僕の額に口付けをするのを無防備に受け入れてしまっていた。そのことを少し遅れて認識してしまい、一気に僕の顔の体温が上昇していくのがわかった。
「──もう、ファヴィのばかぁ……」
そう言って、僕は恥ずかしさのあまり顔を背けてしまった。そんな僕を優しく微笑みかけながらも、強引に向き直らせる。
「すまんな。ユーリが可愛すぎて止まらなかった」
「もぅ、ファヴィは……。って、そんなこと言っている場合じゃないよね。早く魔王を追いかけないと……」
「それには及ばぬ。まずはここにいる者たちを安全な場所に運ぶのが良かろう」
ファヴィは暢気なことを言っているが、魔王は既に王都へと向かっている。そんな悠長にしている余裕があるとは思えなかった。
「大丈夫だ。王都までは我ですら一日近くかかるのだからな。いくら魔王とて二日はかかるだろうよ。それに王都にはヤツもいる。そう簡単にやられぬだろう」
ファヴィの言うことももっともだった。魔王も飛んで逃げていったけど、ファヴィほど速いわけではなさそうだった。
「そうだね。じゃあ、みんなを先に安全な所に連れて行こうか」
僕たちは魔王教の人たちに手伝ってもらって、子供たちとミーナをドラゴンテイルの街まで送り届けた。魔王教の人たちは彼らを誘拐したため、それなりの罪は償ってもらう予定だけど、特に怪我しているわけでもないし、お菓子で買収されたせいで情状酌量を訴えてきたため、そこまで重い罪にはならないだろう、ということだった。
「それじゃあ、魔王を追いかけようか」
一通り手続きを終えた僕たちは、魔王を追いかけようとしたが、ミーナにもファヴィにも止められてしまった。
「せめて今日一杯は温泉に入って体調を整えましょう」
「そうだな、どうせ我に乗って行くのだろう。サウナにでも入って少しでも脂肪を落とすがよい」
「大きなお世話だよっ。まったく……。でも、疲れちゃったし、今日はお言葉に甘えて休むことにするよ」
僕は温泉やサウナでリフレッシュして、そのままベッドに潜り込んだのだった。
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