第七話 ハロウィーンに暗躍する魔王教①

「さて、どうしようかな……」


 適当に言いくるめて外にやってきたものの、どうすべきか悩んでいた。もちろん張り込みのような真似をするつもりはないし、そもそも他の貴族は別の領地か王都にいるわけで、ちょっと行ってくる的なノリで行けるようなものでもなかった。


「最初にギルドで話を聞いて、その後で食事がてら酒場に行こうかな……。でも、なんか少し身体が重いんだよね」


 僕は少しだけ重い体に鞭を打って、ギルドへと向かう。普段は閑散としている場所だけど、ここ最近の行方不明事件の影響からか、多くの人たちがギルドに詰め掛けていた。行方不明になった子供の中には平民ばかりでなく、下級貴族もいるため、捜索依頼がギルドに寄せられているのも大きいのだろう。だが、こちらはファヴィたちが張り込みを続けているはずなので、僕は依頼された魔王教に関する聞き込みを進めることにした。


「すみません、魔王教の情報を探しているんですけど、教えていただけますか?」

「あら、お嬢ちゃん。一人で来たの? 最近いなくなる子が多いから、一人で出歩いちゃダメよ」


 しかし、受付のお姉さんは僕を子供扱いするだけだった。見た目は幼く見える僕だけど、年齢的には二十五歳だから、一人前の大人なんだよね。


「いえ、ぼ……私はここの領主ですよ」

「えっ、竜の聖女様? 確かに面影はあるけど……。なんか少し雰囲気変わりました?」

「変わってませんよ。それはいいので、情報を教えてください」


 領主だと伝えると、受付のお姉さんは奥に行って冊子を取ってきた。それをペラペラとめくりながら、話し始めた。


「えーと、この街ではあまり不審な動きはないみたいですね。ただ、魔界のゲートが近くにあるという噂のせいか、最近、この辺りで大勢見かけるようになりましたね。でも、特に不審な動きもないので、あまり危険視されていないようですね」


 どうやら、彼らは見た目こそ不審者だけど、無害な魔王教だと思われているらしい。僕は彼らの危機感の無さに頭を抱えたくなるが、必死で冷静を装う。


「でも、何で今さら集まっているんでしょうか? 魔界のゲートの噂は今に始まったことではありませんよね?」

「まあ、そっちはね。魔王教が集まってきているのは、ハロウィーンのせいよ。ハロウィーンの日なら封印が緩んで壊しやすくなるという話らしいのよね。でも、これまでハロウィーンなんて聞いたことないし、眉唾だと思ってるんだけどね」


 さすがはギルドである。ハロウィーンの存在そのものに疑いを抱いているのはさすがと言えよう。しかし、どこをどう解釈したら封印の話になるのか、僕にはさっぱり分からなかった。まったく、僕が苦労して販促のためにハロウィーンをでっち上げたのに、それに便乗した挙句、メチャクチャにした魔王教の連中にはホントに困ったものだ。


「あ、それと……。子供たちを魔王にけしかけて、困った魔王に、お菓子と引き換えに世界の半分を要求する、なんて噂もあったわね。ここまで来ると荒唐無稽すぎて、信じる人なんていないと思うんだけどね」


 それはそうだろう。そもそも子供をけしかけられた程度で、魔王が困るわけないじゃないか。それだけならまだしも、お菓子と世界の半分を交換なんて、わらしべ長者ですらビックリだよ。


「魔王教って、頭が悪い人しかいないんでしょうか……」


 もはや、頭が悪いどころか、頭がおかしいのだけど、そこはオブラートに包んで聞いてみると、受付嬢の人も少し考え込んだ後、大きく頷いた。


「そうね。そもそも、魔王教って反体制派っていう王国に不満を持った人が多いのよ。上の方には没落した貴族がいるって噂だけど、信者の大半は平民だからね。それに没落した貴族も結局は親の七光りに縋っただけのボンボンばかりで、基本的に頭が良い人はいないわ。そもそも魔王教の思想や文献自体、頭がおかしい、としか思えないものばかりね」


 その後も、魔王教についての知っていることを洗いざらい教えてもらって、僕はギルドを後にした。


「うーん、色々話も聞けたし、ちょうどお腹も空いたから、酒場で食事しながら情報収集でもしようかな?」


 僕は久々に仕事をした――いつも仕事はしているけど――達成感に高揚しながら酒場へと向かう。しかし、その途中、人通りが少ない道に入ったところで背中から抑え込まれてしまった。


「おっと、嬢ちゃん。大人しくしてもらおうか」

「捕まえたか? まったく、まだうろついている子供が残っていたとはな」

「最近は家に匿う連中が増えたからな。こっちとしては一人でも多い方が良いのだが」


 僕を抑え込んだ男たちは、黒いフード付きのローブを着て、両手に包帯を巻いた、いかにも不審人物という格好だった。


「お前たちは、まお……」

「おっと、嬢ちゃん。静かにしていてもらおうか」


 こんな時にチートスキルでもあれば、容易く振りほどけたのかもしれないけど、生憎そんな都合のいいものがあるはずもなく、僕はほぼ無抵抗な状態で拉致されてしまった。これも、あの爺さんがケチって僕にチートスキルを寄越さないのが悪いんだよね。とは言うものの、非力な僕では抵抗らしい抵抗もできないおかげで、手足を縛られただけで意識まで奪われていないのは運が良かったと言える。


 その後、僕は馬車に乗せられて、体感で丸一日は走り続けたと思う。そうして休憩を挟みつつも延々と走り続けた馬車が止まる。男たちが中に入ってくると、僕を抱えて馬車から降りる。そこは深い森の中だった。巨大な遺跡のようなものを中心として、テントがいくつか張られており、その中の一つに放り込まれた。そのテントの中には僕と同じように攫われてきた子供たちが何人も放り込まれていた。


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