第六話 チョコレート・ファンタジー①
ドラゴンテイルの街にたどり着いた僕たちを待っていたのは──エミルだった。
「何でエミルがいるんだよ。暇なの?」
「また我を煽りに来たのか……?」
笑顔で僕たちを迎えるエミルを、僕とファヴィは不審な目で見ると、焦ったような表情で弁解を始めた。
「いやいや、そんなことしないよ。ただ、ユーリたちが来るって聞いたから。ミーナって子も来ると思って……。居ても立ってもいられなかっただけなんだよ」
どうやら、彼は僕たちが来るのを知ってミーナに会いたくて、待ち伏せをしていたらしい。もっとも、肝心のミーナの方は興味がないのか平然と彼の弁解を聞き流しているように見えた。
「それで、用はそれだけなの? 用が済んだら帰っていいよ」
「何それ、酷くない? それに前に言ってたでしょ。例の機械を持ってきてあげたんだから。ほらっ、これだよ、これ」
エミルが指し示した先には、巨大な機械が鎮座していた。左側に上と下に二つの口が、右側には一つの口がある。そして中央にはスイッチがいくつか並んでいた。
「たぶん、大砲ってやつじゃないかなと思うんだけど……」
とりあえず詳しく調べようと、僕は機械に付いた三つの口を調べることにした。まずは左側の上の口を見ると、「CACAO IN」と書かれていた。今度は下の口を見てみると「SUGAR/MILK IN」と書かれていた。
「カカオ? 砂糖? ミルク?」
この時点で、機械が何をするものか想像がついてしまったが、確証を得るために右側の口も調べることにした。そこには「CHOCO OUT」と書かれていた。
「こ、これは……」
「知っているのか、ユーリ。試した時にはなんかドロッとした液体が吐き出されただけなんだよね……」
この駄竜は何てことをしてくれたんだ……。幸いにも壊れていないようだけど、装置の中に鉄粉や火薬が残っている可能性があるので、まずは洗わないといけないな。
「とりあえず、エミルは水で中を洗っておいて。エミルの友達に、ちょうどいい感じの竜とかいないの? 水を吐き出すようなタイプだといいんだけど……」
「ああ、いるよ。ちょっと呼んでくるね」
そう言って、エミルは飛び去って行った。彼を見送った僕たちは機械に使うためにカカオと砂糖と牛乳を探すことにした。
「ふむ、それが必要なのだな。では、それは我が取ってこよう。何、多くはないが、山の麓に生えているのを見たことがある」
ファヴィはそう言い残して、飛んでいった。僕とミーナは街で砂糖と牛乳を探してみたが、どちらも王国には流通していないらしく、羊の乳と蜂蜜で代用することにした。それらを店で購入して機械の所に戻ると、既にファヴィが戻ってきていた。
「あまり取れなかったが、これで良いのか?」
ファヴィが取ってきたのは間違いなく見た目はカカオだった。ためしに真っ二つに割ってもらうと、中に白い果実部分が見えた。
「うーん、実際に使ってみないとわからないけど、これで大丈夫だと思うよ」
「そうか、それなら良かった……」
これで材料の方は揃った、と思ったところで、エミルが一匹の竜を連れてきた。濃い青が竜で、地面に降り立つと、紺色のショートヘアの女性の姿になった。
「アクア・リアースですわ。アクアと呼んでくださいな。まったく……。ファーもエミルも人間に入れ込むなんて、信じられませんわね」
「我のことはファヴィと呼べ。それにユーリはただの人間ではない。我の番だぞ。一緒にするな」
「俺だって、人間に入れ込んでなんかいないよ?」
「はいはい、言い訳は良いから、さっさとやるわよ。ホントにごめんね。悪いヤツらじゃないんだけど、ちょっと鬱陶しいところあるでしょ。大変だとは思うけど、見捨てないであげてね」
アクアさんは、そう言って僕たちにウインクしてきた。どうやらファヴィやエミルのことを大事に思っているようで、まるで二人のお姉さんみたいな人だな。
「大丈夫です。ぼ……私もファヴィは大好きですから」
「私は無関係ですからね」
僕に大好きと言われて嬉しそうにしているファヴィとは対照的に、ミーナに無関係だと言われて絶望的な表情を浮かべるエミルだった。そんなにショックを受けるなら、もっと積極的にアプローチすれば良いのに、と思うけど。意外とヘタレなんだろうか。
「それじゃあ、行くわよ」
アクアさんは目の前に魔法陣を出す。その魔法陣から猛烈な勢いで水が噴出した。その水は中に残った鉄粉や火薬を残らず洗い流してしまった。しばらくして、出てくる水から不純物が無くなったのを確認できたところで合図を出す。すぐにアクアさんは水流を止めてくれた。
「ありがとう、アクアさん。きれいになりました」
「ふふふ、どういたしまして。それじゃあ、また何かあったら呼んでね」
「この機械で上手くできたら、お礼に一つお渡ししますよ」
「ありがとう。楽しみにしているわ。じゃあね」
アクアさんは竜の姿に戻ると、あっという間に飛び去ってしまった。機械の準備が整ったので、僕はさっそく機械を使うことにした。左側の上の口にカカオを、下の口に羊の乳と蜂蜜を投入して、右の口から出来上がったものを入れるための器を用意する。真ん中にあるスイッチのうちの一つが『BLACK』になっているのを確認して、スイッチをONにすると、ゴリゴリと音がして、右側の口からドロッとした黒い液体が出てきた。その液体に指を突っ込み、手に付いた液体を舐めると紛うことなきチョコレートの味がした。
「おおっ、ちゃんとできてるね」
出尽くした液体が入った器を適当な小さい型に入れて冷やし固める。固まったら型から抜き取ると、不格好だが立派なチョコレートができた。同じ手順で、今度は『WHITE』で作ると、これまた立派なホワイトチョコレートができた。
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