第四話 伝説の黒竜は最強の結界でした①
「聖女様、並びに大司教様がいらっしゃいました」
門番の人が声を張り上げると、左右に控えた衛兵たちが槍を立てて敬礼をする。その中を僕たちはゆっくりと前に進み出る。そして、ある程度まで玉座に近づいたところで衛兵の人たちに止められたので、ロベルトに倣って敬礼をする。当然ながら、ファヴィはそんなものなど無視して国王を睨みつけていたわけだけど……。
「この度の謁見は非公式ゆえ、楽にするがよい」
ファヴィの態度も気にする様子もなく言ってきたので、僕たちも顔を上げた。さすが王というべきか、年齢を感じさせつつも精悍な顔つきに豪華な王冠とローブが彼を国王に相応しい姿に仕立て上げていた。
「さて、この度の呼び出しについてだが、ワシはそこのロベルトから聖女の不調により結界の修復に失敗したとの報告を受けておる。しかし昨日、知っての通り、伝説の災厄である黒竜が王都に襲撃してきたのだ」
実際に見たわけではないけど、国王の言葉はほとんど真実だということは分かる。なぜなら、僕の隣に黒竜がいるからね。しかし、あの装置でも黒竜の襲撃を防ぐことは難しいとロベルトも言っていたはず。試したことは無いにしても、それを理由に僕たちを責めることはできないだろう。そんなことを考えながら怪訝そうな表情をしていると、国王は少し焦ったような表情で釈明をしてきた。
「ああ、すまぬ。実際には被害はなかったのだがな。なにしろ、結界で黒竜を追い返したのだからな」
「えっ?」
何を言ってるのだろうか、この爺さんは。結界なんて、そもそも無いんだけど……。
「そこでワシは考察したのだ。結界の修復に失敗したのは、結界の実情を隠すための方便だったのだとな。そうだな、ロベルトよ」
先ほどからずっと挙動不審なロベルトが、さらに挙動不審になりながら頷いた。それはそうだろう。失敗したという報告は、結界の装置を壊したのを隠すためのものなんだから。
「そうだろうな。お前たちは過去最高の結界を張ってしまったのだ。それも黒竜すら追い返すほどの。しかし、そんなに優秀な聖女であれば、ワシら王家も黙っている訳にはいかぬ。お前ら教会の連中が聖女を独占するために、そのような偽りの報告をしたのだろう」
どこをどう間違えたのか、国王の考察は全く事実とかけ離れたものだった。そもそも黒竜を追い返せるような結界があるなら、隣にファヴィがいるはずがない。しかし、ここでファヴィを見せつけると、それこそ王都は大混乱になるに違いなかった。
「それは黒竜の気まぐれに違いないですよ。結界は関係ありません」
「ふはは。それだけを根拠に強力な結界だと言っているわけではないぞ。それと前後して、多くの魔物が王都へと進軍していたのだ。しかし、それも全て撤退して、近づいてくる気配すらない」
それはファヴィが、僕がいなくてぶち切れたせいで、魔物が怖がって逃げ出しただけだよ。まったく、そんなことも分からないなんて、国王も大したことないな。だが、これ以上、彼の言うことを否定して機嫌を損ねるのもどうかと思ったので、同意しておくことにして、僕は神妙な顔をしながら、考えるそぶりをした。
「たしかに……。それは結界の効果に間違いないようです。不調であったのは間違いないのですが、どうやら、ぼ……私の溢れる力が結界に影響を及ぼしたようですね」
僕は嘘にはならないように言葉を選びながら答えた。実際に僕の溢れる不運の力で結界を壊したので嘘ではない。そして、僕の言葉を聞いた国王も、我が意を得たり、という表情をして何度も頷いていた。
「そうだろう、そうだろう。やはり、我が慧眼に間違いはなかったようだ」
自分で慧眼とか言うのはどうかと思うが……。そもそも、その慧眼は節穴だよ?
「それで……、この度の聖女の働きに褒美を与えることにした。一つは伯爵の爵位、もう一つは王家の直轄地の一つを与えるものとする。それで良いな?」
いやいや、良くないよ。そんなものを貰ってしまったら、後で僕の『聖女(称号)』がバレたら、確実に処刑されてしまう。僕が国王の提案に難色を示していると、国王はとんでもないことを言い出した。
「ふむ……。伯爵位では足りぬと申すか……。ならば、侯爵位か、もしくは王位か?」
どうも爵位が低いと思われているらしく、王位まで出す始末だ。そもそも王位って、僕に全部押し付けて逃げるつもりじゃないか……。
「ふむ、ユーリが王か。悪くないな……」
ファヴィも隣で余計なことを言わない。このままでは、とんでもないことになってしまうと感じた僕は先手を打つことにした。というか、打たざるを得なくなっていた。
「いえいえ、大変光栄なことにございます。謹んで伯爵の位を承ります」
「おお、そうか、そうか。それでは領地も決めてしまうとしよう。地図をここに」
国王の言葉に宰相が王国の地図を取り出した。王家の直轄領には色が塗られていた。
「さて、選ぶがよい。どこでも良いぞ。この辺などどうじゃ?」
そう言って指し示したのは王都だった。
「ここって、王都じゃないですか。そんなところ貰えませんよ。そもそも伯爵が王都の領主とかおかしいですよね?」
「大丈夫だ、問題ない。そうなったら遷都すれば良いだけだからな」
事も無げに言うが、国王は黒竜がいつ戻ってくるか分からないのが不安だから、僕に押し付けて遷都しようとしているのがバレバレだった。そもそも、いつ戻ってくるも何も、僕の隣にいるんだけど……。
さすがに、それは受け入れられないので、じっと地図を見ると、王国の北の端の方に王家直轄領がぽつんとあるのが見えた。僕は迷わず、そこを指差すと国王に告げる。
「どこでも良いと言うのであれば、ここを希望いたします」
「ほほう、流石は聖女だな。ここは王国でも有数の温泉が出る地域だ。観光地としての有名であるから、領地の運営も苦労はしないだろう」
どうやら、思ったよりもいい領地だったようだ。いずれにしても王都よりは遥かにマシだろう。
「なかなか目の付け所が良いな。ここならば我の住処にも近いからな。我の仲間も、その山に多数住んで居る」
「えっ?」
ファヴィの言葉を聞いて、僕は改めて地図をよく見てみた。確かに領地の北側は山岳地帯になっているようで、しかも黒竜山脈と書いてあった。
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