第三話 伝説の災厄をもたらす黒竜④

 数時間かけて王都へと戻った僕たちは、街の入口にいる衛兵の人に許可を取ってくる。すんなりと入る許可を貰ったので、なるべく目立たないように教会へと向かう──つもりが、何故か街に入った直後に大勢の冒険者や衛兵に取り囲まれてしまった。


「一体何なんですか?」

「国王が大司教と聖女を見つけ次第、hhhひ捕らえるようにとのお触れが出ているのだ。大人しく付いてきてもらおうか。心当たりはあるのだろう?」


 心当たりは確かにあるけど、別に街が破壊された様子もない。ここまでして僕たちを責める正当な理由など無いはずだが……。そう考えながら、チラリとファヴィの方を見た。


「我は何もしておらんぞ。ユーリを探すために空を飛んではいたが、別に街に攻撃を仕掛けたりはしていない。ただ……ユーリが街にいなかったのを王国が隠したのだと思って、少しだけイラついてしまったがな」

「それじゃないか……?」

「いやいや、我ほどの存在が怒りを抱くと、それだけで周囲の魔物どもが逃げ出したりはするが、それだけだぞ」


 それだけと言っているが、魔物が逃げ出すだけで十分な脅威なんじゃないか。これは非常にまずい状況なんだけど、あまりに大勢の人間に取り囲まれて、逃げるのは不可能だった。


「ふむ、周りにいる人間どもを蹴散らせば良いのか? なに、殺すつもりはないぞ」

「いやいや、待ってよ。そんなことをしたら状況が余計に悪くなっちゃうよ」

「なるほどな。まあ、いざとなれば王国ごと滅ぼしてしまえば良いのだから、もっと堂々としているがよいぞ」


 そうは言うけれど、まだ召喚されたばかりで、この世界の知識はまるでないんだよ。ただ、イリアス王国という名前はどこかで聞いたような気もするけど……。


「わかった、付いていくよ」


 このまま押し問答をし続けて、ファヴィが暴れたら僕たちは本当の意味でお終いだ。そう思った僕は彼らに大人しくついていくことにした。大勢の人たちに取り囲まれながら馬車で王宮へと向かう。その様子はまるで凱旋パレードのようであった。実際は犯罪者(仮)の護送なんだけどね。


 馬車が王宮へ到着すると、降りるように促される。奥で震えているロベルトを叩き出してから、僕たちも降りると先ほどまで馬車を囲んでいた人たちが左右に分かれて道を作っていた。彼らの間を進んでいくと、そこには口ひげを生やした偉そうなオッサンが立っていた。


「ようこそいらっしゃいました。聖女様。大司教様。わたくし、この国の宰相をしております。フィレンツェ・レジフィルポールマットと申します。お気軽にフィルとお呼びくださいませ」

「ありがとうございます、フィル様。ぼ……私は新しく聖女になったユーリとです。こちらは連れのファヴィです」

「ふんっ」


 僕は宰相に挨拶と自己紹介をしたが、僕が王宮に連れてこられたのが気に入らないのか、ファヴィはずっと不貞腐れていた。


「これはこれはご丁寧に。この度はわたくしどもの呼び出しに応えていただき感謝いたします」


 呼び出しに応えたんじゃなくて、拉致されてきただけだよ。この僕たちを取り囲む人たちを見て気付かないかな。まったく……。


「おっと、これは失礼。聖女様を護送していただき感謝する。ついては後ほど報酬の方がギルドなどから支払われるであろう。もう下がってよいぞ」


 宰相の言葉に僕たちを取り囲んでいた人たちが一斉に退散する。かなり割の良い依頼だったらしく、みんなほくほく顔で帰っていった。その報酬の金額を考えると、僕たちへの殺意の高さがうかがえて、身体が恐怖で震えそうになる。


「安心しろ。ユーリは我の全てをもって守ってやる」

「ファヴィ……。ありがとう、頑張るよ」


 気合を入れなおした僕の姿を見たファヴィが微かに微笑む。そんな些細なやり取りではあったが、僕の心を落ち着かせるには十分だった。僕は覚悟を示すために、宰相の目をじっと見据えた。


「それで、どのような用件なのでしょうか?」

「王都の結界の件だ。既に聖女様の不調により失敗したとの報告は受けておるが、疑義が生じていて、それを確認させてもらうために来てもらったのだ」


 ああ、やっぱり……。王都の結界の修復が失敗したのではなく、ロベルトが結界の装置を壊してしまったことを知ってしまったのだ。僕のせいじゃないけど、今の状況では確実に連帯責任を負わされてしまう。そう思うと僕の身体が強張ってきた。


「ああ、気を楽にしてください。別に査問をするわけではありません。ただ、少しだけ事情を伺いたいというだけですので」


 気軽な様子で言ってくる宰相であるが、社会経験の豊富な僕には、そう言って相手をどん底まで落としてくる人間がいることを知っているんだよね。そう言って逃げられないところまで追い詰めて、そこから突き落としてくるんだよ。


「そんなことを言って、ぼ……私を処刑するつもりですよね?」

「えっ? いえいえ、それは絶対にありません。少なくとも聖女様にとって悪い話はありませんよ。大司教様には少しだけ都合が悪いかもしれませんけども……」


 どうやら、装置を壊したのがロベルトだということまで把握しているようだ。ロベルトは顔を真っ青にしながらも僕を睨んできたけど、僕を睨んでもしょうがないよ。文句があるなら王様にちゃんと言わないとね。


 僕たちは王宮の長い廊下を歩いていき、大仰な扉の前へとたどり着いた。おそらく、この先が謁見の間というやつだろう。いよいよ諸悪の根源である国王との対面だ。僕は無実だと言うのが分かっているけど、それでも偉い人の前に出るとなると緊張してしまうのは仕方ないことだろう。ゆっくりと扉が開いて長い赤絨毯が僕の目の前に飛び込んできた。その先には、これまた無駄に豪華な椅子に座って偉そうにしている国王がいた。

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