第31話
宗士の言葉に心配になった飛鳥は、宗士たちの後を追いかける。
きっと蘭は宗士の金を盗っていないと思ったからだ。
彼らが辿り着いた先は、やはり東堂の部屋だった。
蘭の首根っこを摑まえた宗士が部屋に入ると、怪訝そうな顔で東堂が「一体何があった」と低い声で尋ねる。
「こいつが俺の金を盗んだんです!」
宗士は怒りの感情のままに訴えた。
東堂は宗士と蘭を交互に一瞥して尋ねた。
「蘭がやったという証拠はあるのか?」
「こいつの荷物から、これが出てきたんです」
宗士は金の入った巾着を東堂の前にかざす。
蘭は絶望した顔で首を懸命に横に振った。
「僕は知りません!人様の物なんて盗りませんよ!」
蘭の訴えに、東堂は眉間に皺を寄せて言う。
「しかし現に、お前の荷物から出てきたと言っているだろう。観念しろ」
「俺じゃありません!ちゃんと調べてください!」
いくら訴えても、蘭は以前に飛鳥と和音が閉じ込められた物置部屋に、連れて行かれたのだ。
飛鳥は、どうしても蘭がやったとは思えない。
根拠はないが、悪事に手を染めるような男には見えないのだ。
蘭を救う手立てはないかと途方に暮れながら自室に向かっていると、「おい」と声を掛けられた。
後ろを振り向くと、そこには愛しい男が目の前にいる。
ただ廊下で話すだけなら、周りから自分たちの関係を怪しまれることはないだろう。
「何かあったのか?」
飛鳥の雰囲気で、何かが起きたことを察したらしい和音が尋ねた。
「う、うん……蘭が、盗みの疑いで閉じ込められたんだ」
「え!?」
その事実には和音も驚いたようだ。
「宗士さんの金がなくなって、それが蘭の荷物の中から出てきたんだ」
「……それなら、動かぬ証拠なんじゃないのか?」
「いいや、蘭は人のものを盗ったりしないよ」
飛鳥の言葉に、なぜか和音は不服そうな顔をした。
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