第21話

「そうだったのか……不思議だな。俺たち、前世で何か縁があったのかな」


「分からないけど……」


夢に出てくる人物が本当に和音なのか分からない。


でも、和音と何らかの縁があるなら嬉しいな、と飛鳥は思った。


「俺とお前は、もしかしたら出会う運命だったのかもしれないな。そして、愛し合うことも必然だった……」


そう言うと、和音は唇を触れ合わせてきた。


こんな場所に放り込まれても、和音がいるなら生きていける。


彼は、飛鳥にとって安息を与えてくれる存在だ。


それは、他の誰も代わりにはなれない。


政忠でも……。


飛鳥は和音にぴたりと体をくっつけ、首の後ろに腕を回してより口付けを深くした。


自分が深く和音を愛していることを伝えるように。


和音もそれに応えるように、舌を絡ませてくる。


あまりに気持ち良さすぎて、体が反応してしまいそうになる。


そして、このまま時が止まってしまえば良いとまで思えた。


しかし飛鳥たちはこれから仕事の時間となる。


香煌楼に戻り、客を迎える支度をしなくてはならない。


飛鳥が和音との口付けに没頭していると、突然に和音が唇を離した。


寂しさを感じた飛鳥はもっとして欲しいと縋るが、和音は続けてくれなかった。


「まだ一緒にいたい」


和音の着物の袖裾を引っ張ると、彼は困ったような顔をする。 


「それは俺も一緒だよ。でもこれから仕事だろ?けじめはつけなきゃ駄目だ」


飛鳥はシュンとしながらも頷いた。


残念だが、和音を想いながら他の誰かに抱かれなければいけない。


寂しそうにする飛鳥に、和音はそっと額に口づけをくれた。


それだけでも、飛鳥は仕事を頑張れそうな気がする。


何とも自分は単純なのだと思うが、そうなのだから仕方ない。


「じゃあ、俺が先に行くから。少し後でお前も来いよ」


笑顔でそう言って和音は立ち上がり、建物の方に消えて行った,

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