第20話
目的地にたどり着くと、既に和音が池を眺めながら座っていた。
怪しまれないように、時間差で建物から出てきたからだ。
「和音さん、待った?」
飛鳥の声に振り返った和音は、嬉しそうに微笑む。
「いや、そんなことないよ」
「隣に座っても?」
おずおずと飛鳥が尋ねると、和音は「もちろん」と頷いた。
それを合図に、飛鳥は膝を抱えて和音の隣に座る。
和音の隣が一番落ち着くと思う。
「仕事はどうだ?辛くないか?」
「うん、大丈夫だよ。まぁ、しつこい客もいるけど」
飛鳥の言葉に、和音は「しつこい?」と食い気味に聞いてきた。
「いつも来てくれる中年の客なんだけど、僕に好きだってずっと言ってくるんだ。僕は相手することしかできないのに」
「気持ちくらい、聞いてあげりゃいいんじゃないのか?まぁ、お前の可愛さなら言いたくなるの分かるけどな」
和音は、顔をずいと飛鳥に近付けて右頬に手を添えてくる。
「やだよ。相手はするけど、そんな本当の色恋なんて死んでもしない」
すると和音はムッとした顔で「俺とのことは?」と聞いてきた。
飛鳥は顔を赤らめながら、「か、和音さんは別……」と答える。
それに対して和音は、「良かった」と言い唇を重ねたのだった。
「実は、お前に言ってないことがある」
和音の言葉に、飛鳥は胸がざわついた。
彼は一体何を言うつもりなのだろうか。
「な、なに?」
「俺は、お前に初めて会った時から好きだった。一目見たその時から、お前が欲しかった」
それを聞いて、飛鳥は驚いた。
和音はずっと飛鳥に優しくしてくれていたし、助けてくれていた。
しかし、想いを寄せてくれているとは思わなかったのだ。
「そうだったんだ……」
飛鳥は恥ずかしくなってしまい、返す言葉が見つからない。
「あともう一つ。俺、ずっと前から同じ夢を見るんだ。その夢に出てくる人は、お前にそっくりだ」
「え!?実は、僕も和音さんにそっくりな人が出てくる夢を見てたんだ。ここに来る前から……」
二人はお互いに目を合わせると、その目を瞬かせた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます