第19話
「え?僕を?」
「そうだ。俺は、お前に初めて会った時に一目惚れしたんだ。あの時は、気持ちを抑えられなかった」
「客とするのとは違う。お前を心から欲していたんだ」とも和音は言う。
和音を想う飛鳥はとても嬉しかった。
和音を諦めようと思ったが、そうはできないらしい。
「僕も客室に連れて行かれた時は戸惑ったよ。でも和音さんだから受け入れたんだ。あなたが欲してくれるんならそれで良いと思った」
飛鳥は精一杯の気持ちを込めて「あなたが好きです。どうしようもないくらいに」と告げる。
和音は飛鳥の頬に両手を添えると、「俺も好きだ」と言って唇を重ねた。
飛鳥の心は人生で一番の幸せを感じた。
しかし、遊郭内で男娼同士が色恋関係になるのは、厄介なことになるのではないか。
もし東堂に、自分たちのことが知られてまた罰を受けることになったら大変だ。
せっかく気持ちが通じたところではあるが、現実的にはそれが問題となる。
飛鳥が不安を述べると、和音はこう言ってくれた。
「大丈夫だ。お前は俺が守るから。確かに周りに知られたら厄介だよな。俺たちが会う時にはここに来よう。そうすれば邪魔をされない」
頭を撫でてくる和音を見つめ、飛鳥は「うん」と頷いた。
二人の視線が絡むと、再び互いに唇を重ねる。
今はただ、幸せを噛み締めていたいと飛鳥は思った。
ある日、飛鳥は和音から一枚の紙切れをもらった。
小さなそれは、下手したら誤って捨ててしまいそうなほど。
飛鳥がその紙切れを広げてみると、そこには「未の刻(午後2時頃)に池のほとりで待っている」と書かれていた。
つまりは、逢引きの誘いというわけだ。
その時間帯、男娼たちは仕事の支度をし始める頃。
男娼たちの住居区域はバタバタとしているものだ。
その時間帯なら、どさくさに紛れて建物を出ていくことができるか。
でももしかしたら、人が行き交っていて返って呼び止められたりする可能性もある。
そんな状況の中で、飛鳥は部屋を出て外を目指す。
こうでもしなければ、和音に会えないから。
何とか誰にも怪しまれず建物から出ることができた。
そして一心不乱に池の方向を目指す。
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