第12話

「んっ……」


和音のそれがより奥深く届くのが分かる。


「凄くいいよ……」


和音もお気に召したようだ。


そして和音が背中に腕を回してきたので、飛鳥も和音の背中に腕を回す。


胸は高鳴るが、不思議と心が安らいでいくのを感じた。


飛鳥は「このまま、時間が止まればいいのに……」とさえ思ったのだ。


客と行為をしたとしても、ここまで気持ち良いことなどなかった。


こんなにも燃え上がるのは、相手が想い人だからだろうか。


飛鳥は和音の体温を感じながら、一心不乱に快楽を貪った。


互いに何度も求め合い果てた後、飛鳥は強烈な背徳感を覚えていた。


今回の相手である和音から、男娼同士で行為をしてはいけないときつく言われていたからだ。


それなのに、和音も飛鳥を欲しがった。


一体、なぜなのだろうか。


疑問は残るが、飛鳥が幸福感にも包まれていたことは確かだ。


しかしきっと、和音の心を得ることはできないのだろうと思い、悲嘆に暮れる。




 心を無にしつつ客を取っていたある日、飛鳥に指名が入った。


どうせ気持ち悪いおやじなのだろうと思い部屋に行くと、待っていたのは若い男だった。


端正な顔をしていて、爽やかな雰囲気だ。


これまでの客とは違う彼に、飛鳥は胸を高鳴らせた。


恭しく部屋に入ると、彼の近くに座り挨拶をする。


「ご指名ありがとうございます。飛鳥と申します」


男は、三つ指をつき頭を下げた飛鳥を見ると顔を赤らめる。


「ま、政忠と申します。よろしくお願いいたします」


「政忠、様ですね?こちらこそ、どうぞよろしくお願いいたします」


政忠は大店で働く商人だといい、飛鳥を一目気に入ったという。


男娼を買ったのは初めてだといい、飛鳥を優しく扱ってくれる政忠。


まるで本当に恋をしているかのような時間を過ごすことになった。


自分が好きなのは和音のはずなのに、政忠から与えられる熱に気持ちが揺らぎそうになる。

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