第6話

最初は客を取ることが嫌で嫌で仕方がなかった。


時には自分の父親ほどの年齢の男を相手にしなければならない。


とても苦痛で、吐き気さえ模様したほどだ。


しかも、先輩男娼である宗士からいじめを受ける飛鳥。


宗士は飛鳥に対して、「童貞の赤ん坊」や「生娘」などと悪口を言ったり、蹴ったりしてくるのだ。


飛鳥の心が荒んでいたある日、宗士が「俺の客に手を出すな」と部屋で絡んできた。


そう言えば、和音に「他の男娼の客は盗ってはいけない」と言われていた。


「僕はあんたの客なんて盗ってない」


宗士によると、ある客が「新しく上玉が入ったらしいな。その子を試してみたい」と言ったというのだ。


相手をしてもらっている男娼にそんなことを言うなんて、その客は随分と下衆なものだ。


「別に僕は何もしていない!客くらい自分で繋ぎ留めておけよ!」


飛鳥が反論すると、宗士の拳が飛鳥の頬を直撃。


殴られた拍子に、飛鳥は床に尻もちをつく。


「何するんだ!」


「お前が生意気だからだ!」


二人でやり合っていると、部屋の戸が開いた。


「何やってるんだ、お前ら!」


部屋に入ってきたのは和音だった。


「ちっ。こいつが生意気だから悪いんだ!」


そう吐くと、宗士は部屋を出ていく。


戸を閉める大きな音と共に。


「大丈夫か?」


「……平気です」


「あいつに色々やられてるの、知ってるぞ。お前のこと、見てたから……」


飛鳥が「え!?」と戸惑いを見せると、和音は「新入りだから気になってたんだ」と言う。


「ところで、ここが赤くなってるじゃないか」


和音が飛鳥の頬を触ろうとすると、飛鳥は和音の手を払った。


しかし飛鳥は我に返り、顔を赤くする。


「す、すみません……つい……」


「いや、いいよ。それに、そんな堅苦しい話し方しなくてもいい。気楽に話してくれ」


飛鳥は和音の澄んだ瞳を見つめ、コクリと頷いた。


その日、和音は飛鳥の部屋に移動してきた。


和音はこれまで飛鳥とは別の部屋で暮らしていたが、飛鳥の部屋に住む一人の男娼と部屋を交換したのだという。


「何でここに来たんだ?」と問う飛鳥に、和音はこう言った。


「お前が心配だからだ」


「え!?」


「お前を守るためには、こうするのが一番だと思ったんだよ」


何でそこまで自分のためにするのだと、飛鳥は思う。


「これからは、俺が守ってやる」


綺麗な顔をしているが、男らしさを持った和音の腕に飛鳥は包まれる。


和音の宣言通り、和音は事あるごとに宗士から守ってくれた。


優しく面倒を見てくれる和音に、いつしか飛鳥は惹かれていった。


男が好きというわけではなかったはずなのに、心の変化に動揺したのである。


しかし、ここでは男娼同士が恋仲になることすら、ご法度らしい。


それを知ったなら、和音への気持ちは墓場まで持っていかなければならないのか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る