第4話

その夜から、飛鳥は客への対応などの教えを受けた。


何もかも初めての飛鳥としては、困難なことばかりだ。


しかし、自分の運命を受け入れてこの場で生きていくしかない。


翌日、飛鳥は客を取るための指南を受けることになった。


客との接し方や、奉仕の方法まで学ぶのだ。


本当はこんなことはしたくないが、これが自分の定めならと飛鳥は半ば諦めている。


東堂から「行け」と言われた部屋に行くと、そこには一人の青年が座っていた。


後ろを向いているので、顔は分からない。


飛鳥は取り敢えず声をかけることにした。


「飛鳥と申します」


すると青年はこちらを振り向いた。


青年の顔を見て、飛鳥は衝撃に固まる。


その青年は、飛鳥が夢に見てきた男にそっくりだったのだ。


いや、きっと夢の男はこの青年に違いない。


心なしか、この青年も驚いたような顔を一瞬見せたような気がする。


しかし、互いに余計なことは言わない。


「こっちにどうぞ」


促され、飛鳥は青年に近付いていく。


『なぜ、あの人がここにいるんだ……?』


飛鳥の思考が追いつかない。


「俺は和音といい、十八歳だ。ここには二年ほどいる」


和音というその青年は美男子で、中性的な雰囲気がある。


きっと和音も、数々の男たちを相手にしてきたに違いない。


自分は、この和音から手ほどきを受けるというのか。

飛鳥は何とも言えない複雑な気持ちになった。


「飛鳥、十六歳」


「飛鳥か……。良い名だ。主が付けてくれたのか?」


和音の問いに、飛鳥は首を縦に振る。


「今日、君に色々と教えることになっている。よろしくな」


「よろしく、お願いします……」


本当はお願いなどしたくないのだが、仕方ない。


これから自分は初対面の男に触られるらしいが、今後はそれに耐えていかなければならないのだから。


「まず、ここの男娼同士で関係を持つことは禁止されている」


「はい……」


「あと、客と実際に恋仲になることは禁止じゃないが、好まれない」


和音は「身請けするまでいけば話は別だが……」とも言う。


「あの、みうけって何ですか?」


「大金を払って客が男娼の身元を引き受けるってことだ。金持ちの客を捕まえれば叶えられる可能性がある」


「へぇ……」


そんなことは、自分には関係ないと飛鳥は思った。


「分かったか?」と問う和音に、取り敢えず飛鳥は頷く。


「さて、ここからは客への奉仕についただ」


そう言って和音は距離を詰めてくる。


それと同時に、飛鳥の心臓の鼓動が高鳴る。


男女問わず、こういったことは経験がないのだから。


また、この男だからというのも理由だ。


和音は「じゃ、始めるぞ」と言って、飛鳥の着物の間に手を差し入れ股間に触れてきた。


「い、いきなり何するんだ!」


飛鳥は思わず抵抗する。

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