第3話

すると、部屋に男が入ってきた。


この部屋の住人だろうか、飛鳥のことを舐めるような視線で見てくる。


不躾なその視線に、飛鳥は嫌悪感を抱く。


すると、その男が口を開いた。


「今日入った新入りか?」


彼の年の頃は、飛鳥と同じくらいだろうか。


「そうだ……」


飛鳥は目一杯に毛を逆立てた猫のように警戒し、答える。


「お前、名前は?」


「しろ……飛鳥」


「ふーん。俺は宗士、十六歳だ」


宗士と名乗る少年に年齢を問われ、同じだと答える。


宗士はしゃがみ込み、飛鳥の顔を覗き込んだ。


「嫌だな」と思いながらも、飛鳥は無言で耐えた。


「お前、見てくれは上玉だな。売れそうだ」


「え?」


飛鳥には宗士の言葉の意味が分からなかった。


「顔がいいなって言ってるんだ。俺の好敵手になりそうだな」


宗士は不遜な物言いをする男だが、そこら辺ではお目にかかれないような美形である。


華やかさのある美男子であり、香煌楼では屈指の人気男娼だ。


確かに飛鳥としても、宗士は見たことのないような美貌の持ち主。


「ふぅん……僕は別に……」


飛鳥は無感情に答える。


そんなことを言われても、来たばかりだし良く分からないのだ。


「なぁ、ここがどういうところか知ってるか?」


「男の相手をするって言ってた……」


「そうだ。これからお前は、男たちに抱かれるんだ」


「うん……それは聞いた」


飛鳥が空虚な目を向けると、宗士はなおも尋ねてきた。


「そもそもさ、男と寝たことあるのか?」


飛鳥は答えたくなかったが、何となく答えてしまう。


「……ない」


すると宗士は、目を見開いた。


「女とは?」


その質問に、飛鳥は顔を赤くして口ごもった。


それは、否定を意味している。


「え?じゃあ、生娘ってことか?」


宗士の言葉に、飛鳥は耳まで赤くした。


「お前、耐えられるのか?第一できるのかよ」


そう言う宗士の顔は、何とも悪辣に見えた。


いや、本当に心配してくれているのかもしれないが。


彼の問いに、飛鳥はそっぽ向いて返事をしない。


「……まぁいい。この部屋じゃ俺が頭だからな、言うこと聞けよ。新入り」


そう言うと、宗士は部屋を出ていった。


見知らぬ男となんてできるわけがない。


でも、しないという選択肢は飛鳥にはないのだ。

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