第2話

何日もかけて到着したのは、町外れにひっそりと佇む屋敷。


林を切り開いた中に建てられており、世間とは隔絶されているようだ。


看板には、香煌楼と書かれている。


多少なりとも不気味さを感じた飛鳥だったが、父親に引っ張られ建物の中へと足を踏み入れた。


ここに入ってしまえば、しばらくは出られないことも知らずに。


玄関でちょうど通りかかった人物に声をかけ、主のいる部屋へと通される。


主の「入れ」の合図で、飛鳥は父親と共に部屋に入った。


部屋まで連れてきてくれた人物は、頭を下げると立ち去っていく。


部屋には、細く鋭い目をした短髪の男が立っていた。


何を考えているのか分からない感じがするものの、飛鳥は怖くなる。


「今日からお世話になります、草加士郎でございます」


挨拶をして頭を下げた父親は、飛鳥の頭を押さえつけて強制的に頭を下げさせた。


目の前にいる男の、品定めをするような視線が突き刺さる。


「そうか、待っていた。後は私に任せるといい。悪いようにはしない」


「で、では、息子をよろしくお願いいたします」


幾度も頭を下げた父親は、そそくさと部屋を出て行ってしまった。


二人きりにされ、飛鳥は身を縮こませる。


「そう怯えるな。お前に危害は加えない」


「……」


飛鳥は無言で男の顔を見た。


「私は東堂。お前の名は……たった今から飛鳥だ」


士郎が、飛鳥になった瞬間だった。


「飛鳥?」


「そうだ。可愛いだろう?お前にぴったりだ」


そうだろうかと思う。


確かに、飛鳥は幼い頃より「可愛い」と言われることがあった。


だが、そう言われることには抵抗があったのだ。


これから自分は、飛鳥として生きて行かなければならない。


もう、自分の意思では生きていけないのだろうかと、飛鳥は絶望すら感じた。


東堂に何をすれば良いのかと問うと、男の客に股を開いていれば良いと言われた。


飛鳥は別に男色なわけでもなく、男に体を売るなど考えてもいなかったのだ。


逃れられないこの状況に、飛鳥は絶望を深める。


それから飛鳥は、これから生活をしていく部屋に案内された。


八畳ほどの広さに、四人で寝ることになるという。


想像しただけで窮屈だ。


東堂が部屋を出ていき、飛鳥は部屋の隅で膝を抱えていた。

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