第8話: 異世界の社会と出会う

異世界に転生してから、俺は錬金術や剣術の技術を磨き続けてきた。狭い工房の中で、自分の力を高め、錬金術を駆使して武具を強化してきた。それなりに満足のいく成果を得たが、どこか物足りなさを感じていた。それは、俺がいくら鍛えても、この閉じられた環境では本当の力を試す機会がないからだ。どんな技術も、実戦で試してこそ意味がある。外の世界に出て、自分の力を確かめなければ、成長の限界を知ることはできない。


「外に出るか…」


そう決意し、俺は異世界の社会を知るため、探索の旅に出ることにした。


工房の扉を開けて外に出た瞬間、俺の視界に広がったのは、想像以上に広大で未知の風景だった。青く澄んだ空が広がり、遠くには険しい山々が連なっている。目の前には、緑豊かな森が広がり、その向こうにはさらに未知の大地が続いている。


「これが…この世界か…」


俺は立ち尽くし、目の前に広がる異世界の自然の壮大さにしばし圧倒された。これまで俺がいた工房とは全く別の世界だ。爽やかな風が吹き、鳥たちが空高く舞い、見慣れない異世界の生き物たちが森の中で姿を見せ隠れしている。すべてが初めて見る景色だった。


「面白い…どこまで行けるか、試してみよう」


新たな世界でどれほど俺が成長できるのか。その未知の可能性に、俺は心の奥で興奮を感じた。鍛えた力を試す場所はここにある。そう信じ、俺は足を前へと進めた。


しばらく森の中を歩き続け、丘を登ったところで俺は小さな村を見つけた。村はこぢんまりとしていたが、周囲には広い畑が広がり、村人たちは忙しそうに働いていた。遠くから見ても、彼らの日常が平和に流れていることがわかる。


「まずはこの村を訪れてみるか」


異世界の社会がどのようなものかを知るためには、人々と接するのが手っ取り早い。俺は村に向かって歩を進めた。村に近づくと、すぐに俺の存在が村人たちの目に留まった。装備も異国のものであり、俺の風貌もこの世界の常識から外れていたのだろう。村人たちは作業の手を止め、ひそひそと何かを話し合いながら、俺を遠巻きに観察していた。


「おお、見慣れない格好の男だな」


「旅人か…どこから来たんだろう?」


その視線には、興味と警戒が入り混じっている。俺はそれを特に気にすることなく、村の中心に向かって歩き続けた。人と群れることが好きではない俺にとって、こうした視線には慣れている。必要以上に他人と関わるつもりはない。俺がこの村で知りたいのは、異世界の社会の仕組みだ。それ以外のことに深入りするつもりはなかった。


村の中央には小さな広場があり、そこで市場が開かれていた。野菜や果物、手作りの工芸品などが並べられ、村人たちは活気よく売り買いをしている。俺はその光景を静かに眺め、異世界の村がどのように成り立っているのかを観察していた。


すると、ひとりの子供が俺に近づいてきた。無邪気な顔をして、俺の剣をじっと見つめている。


「おじさん、どこから来たの? その剣、かっこいいね!」


子供の素直な言葉に、俺は少しだけ微笑んだ。大人たちの視線には警戒心を抱くが、子供に対しては不思議と心が和らぐ。


「旅人だ。この剣は俺の大切なものだ」


そう答えると、子供は目を輝かせて俺の剣を見上げていた。錬金術で強化した剣は、光を帯びており、子供にとっては英雄の剣のように映ったのかもしれない。


だが、俺は長くそこに留まることはなかった。市場の喧騒を離れ、村の外れにある宿屋へと向かった。宿に入ると、主人が親しげに俺を迎え入れたが、その目には驚きの色が混じっていた。


「珍しいお客さんだね。どこから来たんだい?」


主人の問いかけに、俺は短く「遠くから来た」とだけ答え、部屋を借りる手続きをした。主人はそれ以上詮索せず、俺に部屋の鍵を渡してくれた。


宿の部屋に入り、窓の外を眺めると、夕焼けが村全体を赤く染めていた。村人たちはそれぞれの家に帰り、平穏な日常が流れている。俺はその光景を眺めながら、どこか違和感を感じていた。異世界に来てから、こうして村の生活を観察するのは初めてだったが、その裏に潜む不安定さを感じ取っていた。


「ここに留まるつもりはない。俺にはもっとやるべきことがある」


俺の心には、この世界でさらなる戦いと試練が待っているという確信があった。この村での生活は一時的なものに過ぎない。次なる冒険に向けて、俺は気持ちを引き締めた。


翌朝、俺は再び村を歩いた。村人たちは友好的に挨拶をしてきたが、俺はそれに軽く応えるだけで、深入りは避けた。異世界の社会の一端を垣間見た俺は、この世界がどうなっているのか、さらに知りたいと思い始めていた。


俺が心の奥で最も警戒していたのは、貴族や権力者の存在だ。村は平和に見えるが、この世界にも権力者がいることは間違いない。俺は、彼らとの関わりを極力避けることを考えていた。過去の経験から、権力を持つ者たちに対しては強い嫌悪感があったからだ。


「この世界にも貴族がいるのだろう。だが、俺は従属しない」


そう自らに言い聞かせ、俺は次の目的地に向けて歩き出した。この村で得た情報は僅かかもしれないが、俺にとっては新たな一歩となった。広大な異世界の大地が俺を待っている。この旅はまだ始まったばかりだ。


「俺の冒険はここからだ」


祐一としての力を再確認しながら、俺はさらなる未知に向けて、力強く前進し続けた。



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