第9話: 傲慢な貴族との対立

異世界に転生してから、俺はずっと自分を鍛え続けてきた。錬金術で武具を強化し、剣術も極めつつある。しかし、どれだけ鍛錬を重ねても、それだけではこの世界の本質は掴めない。実戦、そして異世界の社会を知るためには、外の世界で俺自身の力を試す必要があった。そう思い、俺は工房を離れ、旅に出ることを決意した。


しばらくの探索の末、一つの町に辿り着いた。その町は一見すると活気があるように見えたが、妙な重苦しい雰囲気が漂っていた。町の入口に立つ兵士たちは険しい表情を浮かべ、行き交う人々を厳しい目で監視している。村人たちも怯えたように歩いており、誰もが何かに怯えているかのようだった。


「なんだ、この雰囲気は…?」


これまで訪れた村々では感じたことのない異様な緊張感が、ここにはあった。町の中へ進むにつれて、その原因がはっきりとわかった。広場に進むと、そこには豪華な衣装をまとった一団が居丈高に振る舞っていた。彼らは一目で貴族だとわかる。彼らは周囲の人々に命令を下し、従わせていた。その光景を見て、俺の胸に静かな怒りが湧き上がった。


「どうやら、この町を牛耳っているのはあの貴族どもらしいな…」


権力を振りかざし、弱者を従わせる…その光景は、俺にとって見慣れたものだった。前世での経験から、俺はこうした連中が大嫌いだった。権力や地位を笠に着て、横暴に振る舞う者たち。今も、その感情は変わらない。


俺はその場を立ち去ろうとした。しかし、突然、一人の貴族が俺に目を留めた。俺の装備が目立っていたのだろう。その男は、俺に興味を持ったようで、傲慢な態度でこちらに歩み寄ってきた。


「お前、なかなか立派な装備を持っているな。どこから来た? 我々にその力を貸してはどうだ?」


その貴族は、あたかも当然のように俺に協力を強要しようとした。彼らのこの町での支配権を見せつけ、自分たちの私的な護衛や戦力として使おうという算段なのだろう。俺をただの雇われ傭兵にでもするつもりらしい。


「我々に協力すれば、見返りは十分に与えよう。お前の力、我々のために使うべきだ」


その言葉に、俺は全く心を動かされなかった。むしろ、不快感が募る。貴族たちは、自分たちの欲望のために他人を利用し、支配しようとするだけの存在だ。俺にはそんな連中に従う気など微塵もない。


「悪いが、俺は誰かに従属するつもりはない。俺は俺のやりたいことをやるだけだ」


俺は冷静に、そして断固とした口調で答えた。これには貴族も面食らったようだ。彼らは常に命令し、それに人が従うことを当然と考えている。そんな連中が、俺のように堂々と拒否する者に出会うことは滅多にないのだろう。貴族の顔が瞬時に怒りに染まり、その目には軽蔑の色が浮かんだ。


「なんだ、その無礼な態度は!貴様、我々に逆らうつもりか?」


怒りをあらわにした貴族は、周囲の手下たちに目配せをした。すると、数名の武装した兵士が俺を取り囲んだ。彼らは貴族に仕える兵士たちで、戦闘訓練を受けているのは明らかだった。しかし、俺は動じず、冷静にその場に立ち続けていた。


「やれ、こいつに我々の力を思い知らせてやるのだ!」


貴族の命令に従い、手下たちは一斉に俺に向かって攻撃を仕掛けてきた。剣や槍が一気に振り下ろされるが、俺は瞬時にオリハルコンブレードを抜き、その全てを防いだ。軽く剣を振るっただけで、周囲の兵士たちは一瞬で吹き飛ばされ、地面に転がった。


「……無駄だ。お前たちのような者が俺に敵うはずがない」


淡々と告げる俺の言葉に、兵士たちは恐怖を感じたようだ。俺が微動だにしないこと、そして自分たちが無力であることに気付いたのだろう。彼らは立ち上がろうとしたが、俺が一歩足を踏み出すだけで、全員が後ずさりし、戦意を失っていった。


「な…なんだ、こいつは…ただの旅人じゃないのか?」


貴族はその光景に動揺し、次第に顔が青ざめていった。今まで、彼は自分の力を振りかざして誰もが従うことを当然としてきた。しかし、俺のような存在がそれを拒否し、逆らったことで、その世界観が一瞬にして崩れ去ったのだ。


「貴様…ただでは済まさぬぞ! この町を出て行け!」


怒りと恐怖が入り混じった叫びを上げながら、貴族は震える声で命じた。俺はその姿を冷ややかに見下ろし、剣を収めた。


「お前たちに従うつもりはないし、二度と関わる気もない。だが、次に俺に手を出したら、その時は容赦しない」


俺の言葉には冷徹な決意が込められていた。それを感じ取った貴族は再び震え上がり、手下たちを引き連れてその場から逃げ去った。周囲で見ていた町の人々は、息を呑んで俺の一部始終を見守っていた。普段は恐怖の対象である貴族たちが、俺の前では無力だという事実に、皆が驚愕していた。


だが、俺にとってはただの些細な出来事に過ぎない。貴族たちの横暴に対処するのも、俺にとっては何の感情も揺さぶられることなく、いつものことだった。俺は再び自分の旅に戻るため、町を後にすることにした。


「次の目的地に向かおう。この世界には、まだ試すべき力がある」


俺の旅はまだ終わっていない。広がる世界と未知の挑戦が、俺を待っている。その期待を胸に、俺は無言で足を進めた。俺がこの世界で成し遂げるべきことは、まだ始まったばかりだ。



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