【AI怪談 四十三話目〈食いだおれ〉 弥太郎】
繁華街とは名ばかりの寂れたアーケードを男は歩いていた。
「どこもシャッターが閉まってやがる。食べるとこは無いのか?」
現在時刻は夜の一時。
男は朝からこの時刻まで何も口にしていない。
都会ならこの時刻でも開いてる店が何軒か有る為、男は何時も通りその感覚でこの場末を彷徨いていた。
残念ながら男の期待するものは、そこに無かった。
目に入るのは足元をやっと照らす程度の灯りだけで、開いてる店どころか人通りも全く無い。
まるで廃墟を歩いているかのような錯覚を感じる。
耳に届くのは男の靴音だけ。
そんな無人のアーケードを暫く歩いていると、何処からともなく炭火で何かを焼いたような芳ばしい香りが男の鼻をついた。
腹をすかしていた男はその匂いを嗅ぎ、堪らず涎が口の中から溢れ出す。
「ちくしょう。いい匂いさせやがって。何処からだ?」
男は開いてる店が何処かに有るんだと思い、匂いを頼りに探し回った。
しかし、匂いは確かにするのに場所が特定できない。
「何故だ? そんなに広くない商店街だぞ」
更に血眼に成って探し回った男は、更に空腹感が増す事に成る。
「クソッ、何処だ! 見つけたら食って、食って、食いまくって、食いだおれるまで食ってやる!」
アーケード内に男の叫びが木霊する。
探し回って一時間後、商店街の奥の方から微かな煙が流れているのが男の目に入った。
男は遂に見つけたと思い、全速力でその方向に走った。
商店街の奥角を曲がると、小さな空き地が有り、煙はどうやらそこから立ち昇っている。
「あれ? 店は?」
そこに店は無かった。
有るのは空き地の真ん中にドラム缶が一個。
ドラム缶からは芳ばしい灰色の煙が立ち昇っている。
そして、ドラム缶の中には人間の足のようなものが見えた。
「……まあ、いい。これ以上我慢できない」
そう言って男は涎を垂らしたままドラム缶に近付いて行った……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます