五日目 リモート怪談中 其の参
「いやあああぁぁぁ!」
「落ち着いて、イチハ!」
死んだ。
俺の怪談で……俺の作ったAI怪談で一人確実に死んだ。
いや、これから死ぬのだろう。
その人物にこれから死ぬかも知れない事を伝えて、回避できるようにしたいのは山々だが、何処の誰か全く分からない。
そもそも、この話の怪異が起こる場所は、日本じゃないかも知れないのだ。
インターネットで呼び掛けても、今から二十四時間以内に起こるのだから、間に合うわけがない。
そして先ずこんな話、誰も信じられないだろうし、信じて貰えても、それは俺達の怪談会に巻き込む事と成り、その人が結局死ぬ。
それにネットで拡散すれば、関係のない沢山の人まで呪いに巻き込んでしまうかも知れない。
つまり……つまり、誰かが死ぬと分かっていても、手の打ちようがないんだ。
俺のタイトル〈希望〉は、その思いとは裏腹に、最悪のストーリー展開と成った。
得体のしれない怪物が、俺のこの絶望感で項垂れてる姿を、何処かでほくそ笑んでいるように思える……。
「飾くん……大丈夫?」
「う……うん」
これほど心が痛むとは思って無かった。
今迄は『AIが作った架空の物語での怪談会』という遊び感覚でやっていたから、人が死ぬという内容の話でも平気で聞けていた。
けど、今は違う。
人が……現在まだ生きてる人間が、本当にこれから悲惨な目に遭って死ぬと分かった以上、居た堪れない気持ちが、こんなに頭の中を埋め尽くすなんて想像してなかった……。
正直、もうこれ以上続けたくない。
アプリでの戦争ゲームは出来ても、本物の戦争には行きたくないのと一緒だ。
なのに……なのにまだ、百物語は三分の一が終わったばかりだ。
これをまだ六十話以上も続けなければ成らないという現実。
とても……とても続けられる自信が……無い。
「飾くん! しっかりして! 大丈夫、大丈夫よ。あなたは一人じゃない! 私達も居るんだから、しっかり!」
絶望の淵にいた俺を裕香が励ましてくれた。
そうだ。
リーダーの俺が放心してる場合じゃない。
裕香達の為にも、ここで怪談会を止めるわけにはいかないんだ。
「ありがとう、裕香。辛いだろうけど、次、君の番だ」
「うん。分かった。イチハ、ちゃんと私の次に続いてね」
「……イチハ、やだ。パスする」
「駄目よイチハ。順番を守らないとルール違反で呪いに襲われるわ」
「ヤダ、ヤダッ、無理! イチハもう無理! こんなの、もうやんない!」
「あなたを抜かして綾地くんや、難波くんが先に進めると思う?」
「そうだ。俺達は順番抜かしをしないぞ。そうなりゃ俺と弥太郎、緋黒もタイムオーバーでゲームセットだ。俺達まで一緒に死なせる気か?」
「そ、そんな……そんな事言っても……」
「イチハ、あなた本当にこのまま死んでいいの? 私達、想いを告げたい人が居るんでしょ?」
「ゆーちゃん……」
「辛いけど、お互い想いの為に生きて頑張りましょう」
イチハが裕香達の説得にやっと頷いた。
そうだ。
辛いのは俺だけじゃない。
皆でこの最悪の事態を乗り切るんだ。
「早くしてよ。僕、今日は一番最後だから、僕だけタイムオーバーでアウトなんてのは、ごめんだよ」
裕香が頷き、怪談会は再開される。
無感情な読み上げソフトの声が、それぞれの部屋に響く。
今迄と違い、この感情の無い棒読みが、淡々と殺人を続けるシリアルキラーの声に思えた……。
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