五日目 リモート怪談中 其の弐

 どうすれば良いんだ?

 もし、怪談会をこのまま続ければ、必ず俺達の怪談どおりに何処かの誰かが怪異に襲われる。

 しかし怪談会を中止すれば、俺達が死ぬ。

 誰かに相談したくても、相談された人が巻き込まれて死ぬ可能性がある。

 誰も怪異に襲われず、この怪談会を止める方法は有るのか?


「なに悩んでの、飾君。怪談会始めようよ。君からだよ」


「な、何言ってるの、星野くん。怪談会を続けたら呪いが……怪談の呪いが必ず何処かで起こるのよ」


「続けないと僕達が死ぬよ。山並君や武林さんのようにね」


「イチハ、もういやあああぁぁ! これ以上誰も死なせたくないし、怖がらせたくもない!」


「私も、必ず誰かに不幸が訪れると分かった以上、とてもじゃないけど続けられない……」


「自分が死んでもいいの?」


「それは……」


「僕達は未成年だ。しかも犯罪歴もない。命の優先順位としは上位なんだよ。怪談どうりに死んじゃう人達って、何処に住んでるかも分からない見ず知らずの人達なんだし、どうせ僕達よりも先に死ぬ運命の人達なんだから、いちいち気にしなくても良いんじゃないかな」


「イチハ達の怪談で、赤ちゃんとかもっと小さい子が死ぬかも知れないじゃない!」


「私は、人の命は平等だと思う。順列をつけるのはおかしいと思うわ」


「君達は、武林さんが死んだのを聞いた時と、列車事故で四十三人の人が死んだのを聞いた時では、どっちの方が多く涙が出た?」


「えっ? そ、それは……」


「そんなもんだよ。命に優劣が無いと言っても、個人個人で命の優劣はちゃんと出来てる。綺麗事を言っても、結局人間は自分と、自分に利益をもたらしてくれる人の命の方が大事なんだ」


「そ、そんな……」


「もう良いだろ、緋黒」


 女子二人を論破しようとする緋黒に、里が割って入った。

 里はこんな状況でも、相変わらず冷静だ。


「お前の言い方だと二人の罪悪感を煽るだけだ。みんなお前みたいなサイコパスじゃないんだ」


「サイコパスは心外だよ、綾地君。僕は、諸橋さん達に死んでほしくないから論理的に説得してるだけだよ」


 俺も心情的には裕香やイチハと同じだ。

 けど、緋黒が言いたい事も分かる。

 ここで全員が死を受け入れるのも、それはそれで間違いだ。

 ここは先ず、目先の命を守る事が大事だ。


「みんな。心が痛むかも知れないが、百物語を続けよう。但し、みんなが罪の意識を持つ必要はない。責任はこのゲームを始めた俺に全てある。これからどんな事が起ころうとも、その罪は全部俺が背負う。だからここは幹事の俺の言う事を聞いて続けて欲しい」


「待って! それはおかしいわ! 飾くんのせいじゃない!」


「裕香の言う通りだ。悪いのはこの正体不明の呪いだ。こんなの予測するのは誰にも不可能だ。お前のせいじゃない」


「ありがとう。けど、ここからは必ず怪奇現象が起こると分かっていて百物語を続ける訳だから、その責任は少なからずある。勿論、ただ進めるんじゃない。少しでも不幸が起こらないよう、みんなで解決策を模索しながら進めるんだ。希梨々が戻って解決してくれるのが一番だが、最悪のケースも考えないといけない。みんな本当に嫌な思いをさせてごめん。そして、厚かましいが打開策を一緒に考えてほしい」


 俺はモニター越しに深々と頭を下げた。

 これしか方法はない。

 今は希梨々が言っていた通り、部外者には相談しないまま、百物語を続けるしか方法が無いんだ。

 被害に遭う人の事を考えると心苦しいが……。


「分かったわ、飾くん。私も百物語を続ける。けど、一人で責任を負わないでね。仲間なんだから連帯責任よ」


 裕香の言葉に皆が納得した。

 本当に裕香は何時からこんなしっかりした発言ができる子に成ったのだろう。

 無口だっただけで、元から芯はしっかりしてたのを、俺が知らなかっただけなのかもな。


「けど、解決策か……どないしたらええやろ?」


「緋黒。そのオカルトサイトで、今回と似たような事案が無かったか調べてくれないか? リモートで同じような怪談会をした人が、他に居るかも知れない」


「とっくにやってるよ。けど今のところ情報なし」


「引き続き探しといてくれ。くれぐれも他人を巻き込まないようにな。頼りにしてるぞ」


「わかった。僕は頼んない山之辺さんとは違うしね。期待しといていいよ。それより続けると決めたんなら早くやらないと、時間がどんどん過ぎるよ」


 分かっている。

 俺達の怪談会には、午前一時までという時間制限がある。

 今日は希梨々をこれ以上待てない。


「みんな。怪談を作る時のキーワードは、イチハみたいに出来るだけ怖くないワードにしてくれ。その方が主人公が死ぬ確率が下がるはずだ」


 とは言ったものの、かなり難しい。

 遠足、コンサート、デート、海水浴、漫画、カラオケ……いや、駄目だ、駄目だ。

 どんな楽しい単語も、どんな明るい単語も、みんな怖い結末が思いついてしまう。

 そうだよ。

 怪談を作るのはAIだ。

 内容は全てAIしだいなんだ。

 キーワードを一つ入力するだけの自動作成なんだから、文章内容はAIの匙加減一つで幾らでも怖い内容に変えられるじゃないか。

 でも……でも、やるしかない。


 俺は思いを込めてこの単語を選んだ……。



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