五日目

五日目 リモート怪談中 其の壱

 零時を五分回った。

 モニターには現在、俺を含めて六人の顔が映し出されていたが、まだ誰も一言も発していない。

 皆、俺の開口一番を待っている。

 けど俺は何からどう喋って良いか、本当に分からなかった。


 先ず未彩の死因は、急性心不全による突然死だった。

 遺伝的にも、未彩の健康状態からも有り得ないと、未彩の両親からは聞いた。

 現在未彩の遺体は、もう少し詳しい死因を調べる為、解剖に回されているらしい。


 そして希梨々だが、未彩の死を聞いてから直ぐに電話をしたのだが繋がらなかった。

 俺と里は慌てて希梨々の家に行ったが誰も居なかった。

 近所の人に話しを聞いたら今朝方、家族全員で旅行に出掛けたらしい。

 そんな話聞いて無いが、状況から家族全員で霊能者の叔母さん家に行った可能性がある。

 まだ零時を五分しか回ってないので、リモートにはこれから参加する可能性も有るが、俺からの電話やメールに返信を寄越さないところをみると……。


「やっぱり、只事ちゃうんやな」


 業を煮やした弥太郎が一番に口を開いた。


「ねえ、飾君。怪談会始めようよ。山之辺さんを待ってても仕方ないよ」


「何でだよ」


「山之辺さんも、もう死んでるかも」


「ふざけんなっ、緋黒!」


「落ち着け、慎也。お前が俺達の纏め役だ。熱くなるな」


「……ごめん」


 里の言う通りだ。

 この怪談会は俺が始めたものだ。

 俺に全ての責任がある。

 元クラス委員長だった未彩がいなく成った今、俺が取り乱したり、黙っていちゃ纏まるものも纏まらない。

 皆を更に不安にさせるだけだ。


「みんな……残念だが、この怪談会はどうやら本当に呪われている。途中で抜けた者には不幸が起こるようだ。しかも俺達の怪談どおりに……」


「けど、俺等の怪談に未彩の死を暗示するようなやつ有ったか?」


「……昨日の最後の怪談かも知れない」


「昨日の? あっ! 俺の〈ドッキリ〉か?」


 そうだ。

 あれは死ぬ間際の未彩を表した話だったのだろう。

 だとしたら……。


「希梨々ちゃんは? 希梨々ちゃんは大丈夫よね? だって希梨々ちゃんの死を暗示するような怪談は、昨日無かったもん」


「分かんないよ。もっと前の怪談かも」


「それは無いはずだ。どうやら怪談の呪いは、その日のうちに起こるみたいだ。それに希梨々は昨日、ちゃんと怪談会に参加している。ルールは破っていない」


「怪談の呪いが、俺等だけでなく、他にも影響してるって言うのはホンマなんか?」


「そうみたいなんだ。全部では無いが、一部の怪談が現実にも影響している」


「妖怪が出てくるような怪談は、大丈夫って事ね」


「そういう事。どの怪談が現実とリンクするか、法則性はまだ分かっていない」


 全部で無いにしても、かなり危険だ。

 関係ない人も既に死んでいる。

 クソッ。

 いったいどうすれば良いんだ。


「その事なんだけど、ちょっと良いかな?」


「どうした緋黒?」


 緋黒はスマホを取り出し、何かを検索している。


「僕がオカルトサイトの会員だと言う事は、この間言ったよね」


「ああ。そのサイトのAIで怪談を作ってるんだろ?」


「そう。そして、そのサイトは、世界中のオカルトマニアのコミュニティサイトに成っているとも言ったよね」


「ああ。それがどうしたんだ?」


「昨日僕は、そこで面白い情報を手に入れた。数日前、ジョージア州のとある農家で、奇妙な事件が有ったんだ。家畜が血を抜かれて殺されるという事件だ」


「えっ?」


「その家畜を襲った犯人をビデオに収める事が出来たらしいんだけど、現地の人々はその姿を見て『本物の妖怪モンスター、チュパカブラだ』と騒いでるみたい。勿論映像を見た他の人達は『生成AIで作ったフェイク』だと、誰も信じちゃいないんだけどね」


 ♪♫♫♫♪♫__


 スマホが鳴った。

 送信者は緋黒だ。


「今、君達にその妖怪の写真を送った。君達はその姿を見てどう思う?」


 俺は恐る恐る緋黒が送って来た画像を開いた。

 そこにはヤギのような身体に、牛のような角、そしてウサギのような後ろ足をした怪物の姿が写し出されていた。

 背中には鶏の翼まで……。


「いやあああぁぁぁー!」


 イチハが絶叫した。

 緋黒以外、俺を含めた他の参加者は顔面蒼白に成り、呆然とするしかなかった。


 最悪の事実が分かった。

 一部じゃない。

 恐らく全部だ……。

 俺達がAIで作った架空の怪談は、その日のうちに全て現実と成って、怪奇現象を起こしていたのだ……。

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