四日目 午後二時頃

 虚ろ眼でリビングのソファに座っていると、キッチンから入って来た母が置き時計を見ながら首を傾げた。


「今日はバイト行かなくていいの?」


「うん。今日は休み」


 正確に言うと休みにしてもらった。

 どうしても行く気に成れなかった。

 希梨々の事と未彩の事が頭に離れなかったからだ。

 二人とも何事も無ければ良いが……。


「じゃあ、ちょっと出かけて来るから。留守番お願いね」


「分かった」


 母が家を出てから数分後、里から電話が入った。

 俺は希梨々から連絡が有ったか、もしくは陽斗の事だと思い、慌ててスマホを手にした。


「どうした、里?」


「慎也、今パソコンの近くか?」


「いや、今リビングだから」


「そうか。お前、一日目の怪談の列車事故の話を覚えてるか?」


「列車事故の話?」


 そういえば、誰の番の怪談かは忘れたが、特急列車に幽霊が乗り込んで来て列車内がパニックに成り、事故を起こす話が有ったような……。


「それがどうかしたか?」


「実は裕香の通り魔事件の話が気に成ってな、他にも似たようなのが無いか調べてたら、有ったんだよ。列車事故が。しかも一日目の怪談会の直後だ」


「えっ? でも列車事故なら大きなニュースに成るだろ? そんなニュース、ここ数日で聞いた事ないぞ」


「列車事故が有ったのは南米のチリだ。日本ではそれほど話題に成ってなかったが、ネットでは大きく取り扱われていた。特急列車が脱線し、四十三人の死者が出たらしい。日本時間で俺達の怪談会が終わった直後だ」


「ぐ、偶然だろ?」


「だと良いな」


 通り魔殺人の件。

 陽斗の火事の件。

 エレベーターのかなこさんの件。

 そして列車事故の件。

 俺の頭の中が、パニックを起こしそうに成った。

 どういう事だ。

 本当に偶然か?

 偶然じゃないとしたら……。


「里! 今、出られるか?」


「ああ。未彩の所か?」


「お前の家の方が近い。俺は直接電話してみる」


 そう言って里との電話を切ろうとした時、母が慌ててリビングにやってきた。


「あれ? 母さん早いね。もう用事済んだの?」


「違うのよ! 今ね、外で山田さんにバッタリ会って聞いたんだけど、武林さん家の未彩ちゃんが、今朝急に倒れて亡くなったそうよ。あんた、仲良かったでしょ?」


 背筋に大量の氷を入れられる感覚だった。

 いったい何がどうなってるんだ?

 俺達は……俺達はいったい何に巻き込まれたんだ?

 理解が追いつかない現状に、俺は暫く立ち尽くすしか出来なかった……。



 百話目まで、残り七十七話……。


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