四日目 リモート怪談中 其の壱

「あんた何勝手に始めてるのよ?」


「えっ? だって今日は僕が一番だったからルール通り始めただけだよ」


「馬鹿じゃない! こんな時に……怪談会は中止よ!」


 モニターには八人の顔が映し出されている。

 裕香、弥太郎は目に涙を浮かべ、イチハは泣きじゃくっていた。

 俺、里、希梨々、未彩も神妙な面持ちだ。

 ただ一人、緋黒だけは何時もと変わらず、のほほんとしている。


「中止は良くないよ。彼も怪談会を楽しみにしてたんだから。中止したら彼の魂も悲しむと思うよ」


「緋黒っ!」


 あのテレビニュースを見た俺は、慌てて陽斗に電話してみた。

 だが何度電話しても繋がらず、何回かメールもしてみたが、返事は結局返って来なかった。

 陽斗は寝ているのかも知れないと思い、親に火事の件を言って山並家と親しい人に連絡をしてもらう事にしたのだが、親によると陽斗の両親にも連絡がつかないらしい。

 俺はネットで今回の火災の詳しい情報を調べてみた。

 全焼した家屋は『山並十三』さん宅らしい。

 やはり陽斗の親戚の家だった可能性が高い。

 だとしたら……だとしたら亡くなった男女八人の中の一人は……。


「まだ決まったわけじゃないんだから。警察の発表を待ちましょう」


「断定するのに一週間はかかるんちゃうかな」


「何で陽斗くんだと分かるのに一週間もかかるの?」


「一軒家が全焼だよ。死体はもちろん――」


「緋黒っ! いい加減にしろ」


 信じたくない事だが、状況から見て亡くなった八人の中に陽斗の家族全員が含まれていると思われる。

 夜中に起こった火災とはいえ、何故誰一人助からなかったのだろう。

 火事のほんの数時間前まで陽斗は起きていて、俺達にメールを入れている。

 まだ放火なのか、それとも火の不始末なのか、原因ははっきり分かってないみたいだが、もし、あのまま陽斗が起きていたら、一家は全員助かったのかも知れない。

 いや。

 その時間、俺は起きていた。

 あの時なにか胸騒ぎがしたんだ。

 あの時……あの時陽斗に電話してさえいれば……。


「とりあえず今日は解散ね。人違いの可能性もまだあるんだし、明日、陽斗からひょっこり連絡が有るかも知れないわよ」


 そう言って美沙はモニターから消えようとしたが――。


「未彩ちゃん、ごめん。ちょっと待って!」


「どうしたの、裕香?」


「陽斗くんが……陽斗くんが亡くなったのは、百物語を途中で抜けたからじゃないのかな?」


「はあ?」


「昨日の未彩ちゃんの怪談覚えてる? あれ、陽斗くんの事を予言したものだと思う。いえ、予言というより、もしかしたら呪いかも……」


 そういえば、昨日の未彩の怪談は火の手が上がる話だった。

 棺という言葉も有ったし、通夜の最中とも受け取れる内容だった。

 陽斗は煙草を吸わないが、煙草を吸った主人公が、陽斗のお父さんか、他の親戚なら辻褄が合う。


「あんた、まだそんな事を蒸し返すの? じゃあ何、私が怪談で陽斗を呪い殺したんだとも言いたいわけ?」


「ち、ちがう。そうじゃない。けど、偶然にしては余りにも……」


「未彩。一日だけ我慢して。今日だけでも怪談を続けましょう」


「どういう事よ、希梨々」


 希梨々は何時になく真剣な表情をしていた。

 オーラが見えても可笑しくないほど気迫に満ちている。


「未彩の昨日の怪談は、確かに寝ずの番の人が火事を起こした内容とも取れる。私もこの怪談会、怪しく思えて来た。けど、これが悪霊による物なら私じゃ到底太刀打ちできない相手。だから明日、叔母さんに相談に行ってみる。だから一日だけ待って」


「馬鹿馬鹿しい。私は非科学的なものは信じないのよ。正直、夜更かしも嫌だったけど、ノリが悪いと思われたくないから今回の遊びも特別に参加したのよ。なのに、こんな事態が起こってまで怪談会を続けるなんて、貴方達は不謹慎だと思わないの?」


「ちょ、ちょっと待って。喧嘩せず、冷静に話し合うように」


「慎也。悪いけど今回のリモート会の参加は、ここまでにさせて貰うわ。じゃあね、みんなバイバイ。おやすみー」


 そう言って、怒り気味に未彩はモニターから消えた。

 裕香とイチハがオロオロしてたので、未彩は翌日にはケロッとする奴だから気にしないようにと、俺はその場を取りまとめた。


「しかし、どないする? 希梨々、ホンマに陽斗が死んだのはお化けのせいなんか?」


「本当に分からないの。だから明日聞きに行く。それまで怪談会の事を誰にも言わないでね」


「何でや?」


「陽斗の親が巻き込まれたのは、陽斗が怪談会の事を親に言ったからかも知れない」


 そういえば陽斗は親に怪談会の事を喋っていた。

 だとしたら、この怪談会を知ってる者は参加しないと殺されるのか……そんな馬鹿な。


「でも、陽斗の死が怪談会と関係してる可能性はまだ薄いよね」


「まあね。でも、とりあえず今日は続けましょう。念の為に」


「みんな良いかな?」


「僕は元々続けるべきだと言ってたよ」


 こうして、未彩抜きで怪談会は続けられた。

 表情は暗かったが、それぞれが陽斗の思いを込めてタイトルを選んでいった……。

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