三日目 午後二十一時頃
「慎也! どうしたの? ほとんど食べてないじゃない」
「ごめん、母さん。食欲無いんだ」
俺はその日の夕食をほとんど残してしまった。
何時もなら綺麗に平らげるのに。
「慣れないバイトで疲れた?」
「そうかもね……」
朝食も、食べて無いので親が心配していた。
さっきまで働いていたバイト先でも昼食を食べていない。
深夜から本当にずっと調子が悪いのだ。
喉が痛いとか、身体がだるいとか、そんな身体的に悪い感じじゃなく、なんか言い表せない心の重たさだ。
「風呂入るね」
俺は風呂場に行き、服を適当に脱ぎ散らかすと、そのまま湯船に浸かって心身共にリラックスさせた。
そして昼間に、バイト先の先輩と交わした会話内容を思い返す。
先輩は真顔で俺にこう聞いてきたのだ。
「お前、『エレベーターのかなこさん』の話を知ってる?」
「『エレベーターのかなこさん』? なんですか、それ?」
「いや、知らなきゃいいんだ」
先輩はそれ以上喋らなかったし、俺もそれ以上追及しなかった。
でも後に成って気になり出す。
確か俺達の怪談の中にも、そんな名前が出てくる怪談が有ったはずだ。
俺が知らないだけで、『エレベーターのかなこさん』は、有名な怪談話だったのだろうか……。
風呂から上がるとリビングに行き、ソファに座りながらテレビをつけた。
山を背景に、黒い煙が立ち昇る映像が画面いっぱいに映し出される。
どうやら大きな火事のようだ。
そしてニュースキャスターが、俺を愕然とさせる記事を読み上げた。
「本日未明、富山県で木造一階建ての住宅が全焼するという大規模な火災が有りました。この火災で、現在男女八人の死亡が確認されています。火災当時、この住宅では通夜が行われており、亡くなられたのは通夜で集まっていた故人の親戚ではないかと――」
『富山県』『木造一階建て』『通夜』……それぞれの言葉のピースが、俺の頭の中で思い当たる人物の顔を作り上げて行く……。
百話目まで、残り七十四話……。
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