一日目 リモート怪談中 其の参

「うーん、やっぱ現実感ないよなー」


「怪談って、こんなもんじゃないの?」


「AIの作る怪談って、『怖い』と言うより『妙』とか『不思議』みたいな感じやな」


「あー、なんか言いたい事わかるわ。無感情なのが伝わってくるのよねー」


「AIの限界なんやろな。流石に人間の『怖い』って感情までは分からんやろうし」


「千文字以内って縛りもきついんだと思うよ」


「てか、機械の声ってのが、すげぇ味気ないんだよな。盛り上がり場所も棒読みだから」


「内容が薄っぺらく聞こえるからな。関西人に聞かしたら、『で、オチは?』って言われるで」


 あらら。

 どうやらイチハ以外は肝試しとしては少々物足りないらしい。

 実は最初、読み上げ機能を使うのでは無く、それぞれ自分達が怪談師さながらに真に迫った口調で語る予定だったのだが、イチハが猛反対したので今回の形に成ったのだ。

 どうもそれがイマイチ盛り上げに欠ける要因に成っている。

 まあ、元々リモート会のメインは雑談なんだし、AI怪談はオマケと言う事で許して欲しい。


「お前等文句ばっかりだな。毎回楽しまそうと企画してくれる慎也の気持ちにも成ってみろ」


 モニター中段右に映る五分刈り男子『綾地里』が俺をフォローしてくれた。

 里は幼稚園からの幼馴染で、小さい頃から何時も一緒に遊んでいた仲だ。

 現在、里は他県のサッカーで有名な学校に通う為に寮暮らしなのだが、夏合宿が終わって十日間だけこっちに帰って来ている。

 寮に戻るとリモートに参加できないので、怪談会を本日からの十日間開催にしたのは、里の日程に合わせたという理由も有ったのだ。

 俺と違って体育会系でストイックな奴だが、何かと頼りに成るずっと変わらぬ親友だ。


「あのー……ちょっと、いいかなぁ?」


「何?」


「私は今回の怪談会もすっごくドキドキして、とても楽しいわ。AIを使った怪談も怖いし、何よりこんな奇抜な企画を考えて実行するなんて素敵な事だと思う」


「そうなん。裕香ちゃん全然怖がっているように見えへんけど」


「そんな事ないわよ。私、リアクション下手なので分からないかも知れないけど、内心、心臓が飛び出しそうな位なんだから」


 モニター中央左に映るポニーテール女子の『魚留裕香』は、現在俺と同じ高校に通っている。

 控えめで、おとなしい感じの子なのだが、実は中学時代は今よりもっともっとおとなしく、ほとんど誰とも口を利かない超暗い子だった。

 休み時間は何時も教室の片隅に居て、放課後気づいたら消えているという、まるで幽霊みたいな子だったのだ。

 それでも透明感ある美人さんだから、気に掛ける男子は少なくなく、各有俺もそんな男子の一人だった。

 お近づきに成りたかった俺は、三年の時に同じクラスに成った事も有り、クラスのイベントの幹事は全て請け負って、彼女をいの一番に誘ったものだ。

 何とか彼女と打ち解けられるよう試行錯誤して頑張った結果、今ではこうして皆とも仲良くしてるってわけだ。

 夏休み前、学校で彼女が所属する吹奏楽部の人達と楽しそうに会話してるのを見かけた時は、一年前とはまるで別人のようだと、しみじみ思ったものだ。


「イチハ、この間のリモート運動会が一番良かったなあー」


「それな。あのリモートパン食い競争とリモート買い物競争は最高やったわ」


「裕香ったら、わざわざ大きな高級食パンを一斤丸ごと買ってきて、そのまま参加したから案の定最下位だったわよね」


「アハッ。そうだったね」


 控えめに言って、裕香の微笑む姿は正に美の熾天使だ。

 実は俺の胸の内は、裕香には打ち明けられないでいる。

 何せもし俺が振られたら、お互いが気不味く成ると想像つく。

 そうなると、せっかく皆とこうして遊べるように成った彼女が、再び交流を避けるように成ってしまうかも知れない。

 それは彼女の為にも避けてあげたい。

 俺としては裕香の笑顔がずっと見れるなら、大勢いる友達の中の一人で十分なのである。

 幹事って、皆を公平に纏める為にも恋愛感情は表に出しづらいんだよね。

 レクレーションがきっかけで、カップルに成ったクラスメイトも多いんだけど、幹事の俺は相談役で終わっちゃうとかさあ……いや、俺は皆が幸せならそれで良いんだよ。

 ほんと、皆が幸せなら……クソッ……。


「あれ? どうしたの、飾君。なんか涙目に成ってない?」


「あっ、いや。何でもないよ。ちょっとパソコンのブルーライトにやられただけ」


「実は一番怖がってるの慎也じゃないのか?」


「バレたか……怪談よりお前等の俺批判にビクビクしてんだよ!」


 そんなモニター中央に映る俺、『飾慎也』は、県内の普通高校に通うレクレーション大好き男子である。

 小さい頃からこういった自作企画を行なっていて、クラスメイト達と遊んだ時のビデオは、動画サイトやSNSにも沢山流しているし、登録者数もそれなりに居る。

 今回のリモート怪談会も好評なら動画サイトにアップするつもりなのだ。

 夢は勿論インフルエンサー。

 いつか世界中でブームが起こるような企画を考えてやる。


「飾君、安心しなよ。次は僕の番。つまりこの怪談会のメインディッシュの時間だ。大盛り上がり間違いないよ。実は今までの、みんなの怪談が大したことなかったのは、仕方がない話なんだ。所詮無料AIが作った完成度の低い怪談だからね。僕が使うサイトは、オカルト専用サイトだから期待していいよ」


「オカルト専用サイト?」


「そう。怪談だけじゃなく、怪談に合わせたイラストや動画も生成AIで作ってくれる優れものさ。僕は元々ここの会員で、月額一万払っている」


「月額一万! あんた馬鹿じゃないの?」


「馬鹿は君だよ。山之辺さんはこのサイトの素晴らしさを知らない。世界中のオカルトマニアが使っているサイトなんだよ。僕はここで仲間たちと情報交換をして常に新しいオカルト情報を手に入れている。怪談などを作るAI機能は、ただのオマケに過ぎない。例えばだね――」


「緋黒! わかったから始めろ。時間ないぞ」


「チェッ。仕方ないなあ。じゃあ始めるよ」


 こうして能書きの多い緋黒の怪談から百物語は再開された……。

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