【AI怪談 七話目〈うめき声〉 緋黒】

その小さな酒場には奇妙な噂話があった。


それは、時より苦しそうな女性のうめき声が、何処からともなく聞こえて来るというものだ。


男は事の真相が知りたく、毎日その店に通うように成った。


だが毎日通っても一向にうめき声など聞こえてこやしない。


男は不満に思い、失礼とは知りつつも店主にその事を聞いてみた。


すると店主は薄笑みを浮かべながら「それは聞こえる条件があるんですよ」と答える。


男は「条件とは?」と聞くと、店主はワイングラスを磨きながら恰も当然かのごとく「女性を殺すんですよ。女性を殺した経験のある方だけが、その殺した女性のうめき声が聞こえるんです」と言った。


それを聞き、男は「やられた」と思った。


店主は客集めの為だけに、そんな有り得ない噂話を流していたんだと思ったのだ。


男はもうこの店に来る必要は無いと思い、キープしていたウイスキーのボトルを数分で空にした。


そして勘定を済ますと千鳥足で店を出る。


酔った男は最初のうちは上機嫌で歩いていたが、ふと立ち止まり思いにふける。


男の頭の中に「今、ここで女性を殺したら、本当にあの店でうめき声を聞けるのだろうか?」という思いが何度も何度も巡った。


男はそうなると試してみたい衝動が抑えられなく成り、持っていたナイフで通りすがりの若い女性を滅多刺しにした。


女性は死に、やりきった男は「これであの店に戻れば、うめき声が聞けるかも知れない」と思った。


だが、それは叶わなかった。


何故なら男は直ぐにその場で警察に捕まったからだ。


結局男は牢獄中に亡くなり、二度とその店に入る事はなかった。


小さな酒場の奇妙な噂は、今も絶えない。

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