【AI怪談 二十六話目〈陽炎〉 未彩】

男はウトウトとしていた。


悪霊が入り込まぬよう、その役を自分で買って出たのだが、連日の仕事の疲れで段々と疎かに成っている。


誰かを起こして代わってもらおうと腰を上げたが、皆も疲れている事を思い出し、再びその場に腰を下ろす。


静かな夜だ。


死者は眠っている。


起きるはずはない。


悪霊に取り憑かれないかぎり。


男は携帯していたシガレットケースと灰皿を懐から取り出すと、「失礼」と死者に一言詫びてから煙草を一本取り出した。


そしてライターを忘れた事に気づくと、目の前の線香でその先に火を点け、一つ大きな煙を吐く。


煙はまるで、その死者の霊魂かのように棺に纏わりついた。


その光景に男は一瞬肝を冷やすが、大丈夫だろうと再び煙草を口につけ煙を吐く。


今度の煙は、まるで生き物のように男の身体に纏わりついた。


そして次の瞬間、何処からか鈴の音が聞こえてくる。


男の意識が遠のく。


遠のく意識の中、「あなた達もコッチへ」という微かな声が聞こえたように思え、男は首を振った。


目が覚めると男は炎に包まれていた。


棺の中の死者が、陽炎のように揺らいでいる。


まるで「コッチにおいで」と誘っているかのように……。

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