二日目 リモート怪談中 その参

「じゃあ、俺、明日早いから先に抜けるわ」


「おう。気を付けて行って来いよ」


「センキュー。みんな愛してるぜ」


 陽斗は笑顔のままモニターから姿を消した。

 内心泣きたいのを、俺達に悟られないよう無理して笑ってたのかも知れないが。


「あっ、飾くん。私、明日は少し遅れるから。先に始めてて」


「珍しいな。何事も早目に来る未彩なのに。なんか用事?」


「家族で日帰り温泉に行くのよ。うちは一家で健康マニアだから。田舎の祖父も八十歳超えてるけど、温泉のお陰で一度も入院した事が無いって言ってたわ」


 この言葉に裕香が何やら不思議な反応をしていた。

 右拳を顎に当て、伏し目がちに何かを思い出そうとしている。


「どうしたの、裕香。なんか考え事?」


「う、うん。皆……ちょっと、いいかなぁ?」


「何?」


「確か昨日、お婆さんが入院している怪談話がなかったかな?」


「有ったよ。百物語二話目だ。武林さんの作った〈老婆〉ってタイトルのやつ」


「えっ? 私の? そうだったっけ?」


「昨日の自分の怪談なのに覚えてないの? 成績優秀な武林さんのくせに?」


「私はこれからの人生に必要な事しか頭にインプットしない事にしてるの。速攻で削除した怪談なんか一々覚えてる方がおかしいわよ」


「裕香ちゃん、そのお婆さんの話がどうかしたんか?」


「えっ? あっ、いや何でもないの。ちょっと気になっただけ」


 その後も他愛もない雑談は続き、昨日同様午前一時にお開きと成った。



 この時、裕香は誰よりもいち早く、このリモート怪談の異常性に気付いていた。

 俺達が遅れてその事に気付いた時は、もう既に手遅れだった。

 これから先、怪談の一話一話が、俺達の心に重くのしかかってくる……。


 百話目まで、残り八十二話……。

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