二日目

【AI怪談 十話目〈アパート〉 裕香】

昔、私が住んでいたアパートの一室は、必ず出ると有名でした。


部屋の壁に血が滲んでくるとか、夜中に女性の笑い声が聞こえるとか、噂が絶えなかったんです。


実際にその部屋に住んだ人は「気味が悪い」と言って、誰も三日と持たなかったんですよね。


大家さんも頑張って家賃壱萬圓とか格安にしても、やっぱり長く住みつく方は居なかったんです。


そんなある日、自分はオカルトなんか絶対に信じないという気丈な男性の方が現れ、部屋に長く住んでくれたんです。


その男性は実際に壁に血が滲んできても、怪しい笑い声が聞こえてきても、意に介さず、数ヶ月住んでくれました。


私は「ああ、本当にこの世には大丈夫な人も居るんだ」と、最初は喜んでいたのですが、月日が流れるに連れて男性の顔色はどんどん悪く成っていきました。


男性は遂に倒れ、入院する事に。


私は寂しいので長年住み着いていたその部屋を離れ、男性に憑いていく事にしました。


もう、あれから十年。


男性は今も病院で寝たきりで、私もこの病院にずっと住み憑いています。


私達が出た後、あの部屋に幽霊が出たという噂話は聞かなくなりました。


それもそうです。


だって私は十年間ずっと、この病院に居るんですから。


でも、もうすぐこの男性は亡くなるので、そうしたら二人で一緒にあの部屋に戻ろうと思っています。


かつて私が住んでいた、あのアパートの一室へ……。

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