【AI怪談 九話目〈夜道〉 裕香】

あれは小雨が降る真夏の夜の出来事です。


私が傘を差しながら薄暗い夜道を歩いていると、後ろから誰かが忍び寄る気配がしました。


慌てて後ろを振り向いて見たのですが、そこには誰も居ません。


立ち止まって見廻しましたが、誰かが隠れるような場所はなく、そればかりか見える範囲には人どころか虫一匹いません。


気のせいだったんだと自分に言い聞かせて再び歩きだしたのですが、やっぱり気配は感じます。


私は怖くなり、走りだしました。


最初は小走りでしたが、気配はさっきより近くに感じたので、途中から全速力で走りました。


水溜りの飛沫が足や服を濡らしても気にせず走りました。


傘が意味を成さないぐらいに撓っても走り続けました。


やがて自宅の玄関に付き、ドアを開けると中から慌てて母が出てきました。


母は「無事で良かった」と胸を撫で下ろす様子だったので、「どうしたの?」と私が聞いたところ、何でも近くで通り魔事件が有って犯人がまだ近くにうろついているとの事でした。


電話をしても出ないので、心配に成って今から迎えに行こうとしていたところだったとか。


確かに母の言う通り着信履歴は残っていましたが、私の携帯は消音にしてなかったのに鳴っていませんでした。


携帯は故障してないのに何故鳴らなかったのか。


そして、あの気配は、いったい何だったんでしょうか……。

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