一日目 リモート怪談中 其の弐

「ふぎゃあああああぁぁぁ!」


「いい加減にしてよイチハ! 何時だと思ってんの? うちの親が起きて来るじゃない!」


「だ、だ、だって……めっちゃ怖い、めっちゃ怖いんだもん」


「あんた、何でAIが作った完全フィクションの怪談にそんな怖がれるの?」


 さっきから一人「ぎゃあぎゃあ」騒いでるモニター中央下段に映るツインテール女子『諸橋一葉』に対して中央上段に映るメガネっ娘女子『武林未彩』が怒っている。

 イチハは昔からこうで、何かと騒がしい。

 まあ、今回肝試しなので、こう言うキャラが一人は居ないと盛り上がらないのは確かなんだが……。


「あんた、そんなに怖いなら何で今回参加したのよ? もう明日からリモート外れていいから」


「いやぁー! それは、絶対いやぁー! イチハ抜きで、皆ワイワイ楽しくするなんて、絶対許せないぃー」


「ほんと、我儘なんだから……」


「それよりミーちゃんは何で青い着物着てるの?」


「あんた知らないの? 百物語する時は青い着物を着るのが昔からのマナーなのよ。ねえ、希梨々、そうでしょ?」


「確かにそういうルールだけど……律儀に和服着てるの未彩だけよ」


 未彩は中学の時、うちのクラスの学級委員長だった。

 学業成績も凄く優秀で、今も県内で一番偏差値の高い高校に通っている。

 優等生なのだが、こういった遊びの企画もノリノリで参加してくれる女子なのだ。

 昨年動画サイトにアップした変顔ダンス大会の時も最前列で一番弾けていたぐらいだ。


「遊びも勉強も妥協は許さない。それが私のモットーよ」


「陽斗! 未彩になんか言ってあげてよ。あれ? 陽斗は?」


「ん? さっきまで映ってたんやけど、トイレか?」


 いつの間にかモニター右下段に映っていた長髪男子の『山並陽斗』が消えていた。

 次はアイツの番なのに。

 因みに怪談の発表順番は、リモートに参加して来た順番。

 明日からも、そうするつもりだ。


「きゃああああぁぁぁ!」


「あっはっは! ナイスリアクション」


「もう。つまんない事やめてよ。それでなくともイチハ五月蝿いんだから」


 陽斗が突然、能楽で使うようなキツネ面を被って現れたもんだから、またもやイチハが大声で叫んだ。

 陽斗は中学時代から、こういう悪戯ばかりするお調子者だ。

 けど催し物は、いつも盛り上げてくれる面白い奴ではある。


「そのキツネ面、去年ハロウィンでつこたやつや。なついなー。俺が持ってたオカメ面、キッショいからほかしたわ」


 コテコテの関西弁を使う左上段に映る小太り男子『難波弥太郎』は、中学卒業後に引っ越して現在は大阪に居る。

 元々小さい頃大阪で育った弥太郎は、地元に帰ったというわけなのだが、今でも俺達と過ごした中学時代が最高だったと、こうしてリモートでの交流を続けてくれているのだ。

 一番遠くに離れてしまった仲間なので、リモート雑談会は弥太郎の為とも言える。


「陽斗。次、お前の番だぞ」


「よっしゃあー! 任せろぉ! 俺の怪談で、お前等を恐怖のドン底にたたき落としてやるぅー。全員覚悟しろよー!」


「はいはい。わかったから、とっとと始めてね」


 未彩に軽くあしらわれながらも、陽斗は百物語を再開させた……。


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