一日目 リモート怪談中 其の壱

「ふぎゃああぁぁぁぁぁぁ!」


「な、何っ、何っ、何っ?」


「イチハが叫んだのよ。まったく……」


「もぉー、イチハ! 急に大きな声ださないでよ! アンタの声にビビったじゃない」


「へぇー。霊感有ってもビビるんだね」


「うるさいわね。霊能者だってビビる時はビビるわよ」


「しっかし、今の怪談の何処に叫ぶ要素が有ったんだ?」


「あのー……ちょっと、いいかなぁ?」


「なんや、裕香ちゃん?」


「私、気になったんだけど、飾君の話の二ツ目の怪物って何かな? 一ツ目や三ツ目の妖怪なら知ってるんだけど……」


「さあ? 二番目って意味ちゃうか。それより、りく! 『とさ』って何や、『とさ』って。日本昔話じゃなくて、ちゃんと怪談を聞かせろやっ!」


「知るか。俺が作ったんじゃねえよ」


「ハッハッハ! 誰か課金しろよー。明らかにAIが手を抜いてるぞ」


「まあ、まだ三話目だから。これから怖く成るよ。たぶん」


「イチハ、もお、じゅーぶーん怖いんですけどぉー」



 時刻は深夜零時を少し回ったところ。

 今、俺の目の前のモニターには俺を中心に九人の男女の顔が映っている。

 それぞれが真っ暗な部屋の中なので、表情や部屋の様子などは分かりづらく、何処か薄気味悪い。

 夏休みとはいえ、健全な高校生なら布団を被っていても可笑しくない時間なのに、俺達はこうして眼をランランとギラつかせ、机上のパソコン越しに向かい合っていた。

 なぜ俺達がこんな時間に部屋の明かりを消し、オンラインで顔を突き合わせているかと言うと……。


「イチハ! 次、あなたの番よ。早くしてよね。ぼやぼやしてると一時回るわよ」


「だって……怖いんだもん……」


「自分で作るんじゃないんだから、適当な単語を入力すれば終りでしょ」


「でもぉ……イチハ、やっぱりパスしていい?」


「百物語って、途中で抜けた人の元にお化けが出るって話だぜ」


「いやぁー! それ、超絶だめぇー! すぐ作るぅー!」


 そうなのだ。

 俺達は今、肝試し中。

 オンラインで『百物語』をやっている所なのだ。

 但し、自分達で考えた新ルールで行なっている。

 通常百物語は、一つの部屋に皆が集まって自分達の知ってる怪談話を朝までに百話続けるってものなのだが、俺達はこれを各自、自分の部屋でAIを使っての即興怪談を作った後、それを読み上げ機能でパソコンから流すというやり方で行なっている。

 何故こんなやり方の百物語をしてるかと言うと、実はパソコンに映っているこの九人は中学校の時の同級生で、この春に離れ離れに成った元クラスメイトなのだ。

 中学卒業後に学校が別々に成ったばかりではなく、引っ越したり、寮に入ったりで遠方に成った者も居るので、俺はこうしたリモートを駆使したゲーム大会や雑談会などを毎月企画して行なっている。

 そして今回は夏休みという事もあり、夏の風物詩の怪談会をリモートで試みたわけである。

 とは言っても真夜中の怪談会なので、親がパソコンを使わしてくれなかったり、怪談嫌いだったりなどの諸々の事情で、結局参加者はこの九人だけに成ってしまったのだが。

 まあ、それでも参加者は皆楽しんでくれているようである。

 今のところは……。


「イチハ、まだかよ? 何悩んでるんだ?」


「うーん……キーワードなんだけど……『かわちぃ』と『猫ミーム』どっちが良いかな?」


「お前、怪談だって言ってるだろ!」


「怖がらせる気ゼロだね」


 百物語のメインと成る怪談を、それぞれが選んだ文章作成サイトのAIに作ってもらう事にしたのは、その方が皆が絶対に初めて聞く、耳新しい怪談話に成るであろうと思ったからである。

 それにこれなら怪談話を知らない人でも、気軽に参加できるからね。

 怪談を作る時のルールとして、まずジャンルを『怪談』としてからキーワード欄に怪談に適した単語を一つ、各自で考えて入力する。

 この時入力したキーワードの単語が、タイトルにもなる。

 例えば今回俺が発表した一話目は、文章作成サイトのキーワード欄に〈闇路〉と入力し、後は自動で作成してもらったものだ。


「もう五分待ったわよ! まだっ?」


「も、もうちょっと待ってて。心の準備が……」


「AIが作る創作怪談に、なんの準備が必要なんだよ」


 もう一つ通常の百物語ルールと大きく違う所は、夏休みとはいえ真夜中に親に内緒で遊んでいる者も居る為、流石に時間制限を作った。

 怪談会は午前零時から午前一時までの一時間としたのだ。

 更に時間短縮の為にそれぞれ作ってもらうAI怪談は、一話千文字以内に設定してもらう事にした。

 それでも一日で百話は到底無理なので、今回は九人参加という事もあり、一日一人一話の十日間開催にしたのだが……それだと九十九話までしか出来ない。

 何とも中途半端なんだけど、参加者の一人、希梨々きりりはその方が良いと言う。


「百物語は百話目が終わった時点で本物の妖怪が現れるから、九十九話で終わらすのが通常なのよ」


「僕は本当に妖怪が出るか検証したいから、百までやるべきだと思うけどね」


「じゃあ、緋黒ひぐろが百話目担当ね。十一日目に一人で百物語やってなさい」


「望むところだね」


 モニターの右上段に映るショートボブヘアーの女子『山之辺希梨々』と、左下段に映る刈り上げツーブロック男子『星野緋黒』が喧嘩をしだした。

 この二人はオカルトに詳しく、今回『百物語』をするに当たってアドバイザーに成ってもらっているのだが、実はかなり仲が悪く、中学校の頃からしょっちゅうこうだ。

 なんでも希梨々の叔母さんは有名な霊媒師らしく、希梨々も少し霊感があるらしいのだが、自称オカルト博士の緋黒は希梨々の霊感を信用しておらず、その知識量で希梨々を論破しようとお昼休みにあーだこーだと言い争っていたのを覚えている。

 まあ、俺としてはオカルトの事を少しは信じるが、どっちが正しいかは正直知らん。


「じゅ、準備できたから、い、行くね……」


 どうやらやっと次の番のイチハの怪談が始まるようだ。

 一同が静まり返り、百物語は再会される……。


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