無駄話

じゅじゅ/limelight

譲れないもの

 「なあ、俺たちって最終的にどうなっちまうんだろうな」


 昼休み。屋上で昼ごはんを食べ終わり、空を仰ぎながら有太ゆうたは言った。


 「わかんない」


 気の抜けた声が、風の吹く屋上に飛び交う。


 「でもさ、人間ってみんなどうせ最後に死ぬよな」

 「そうだな」

 「じゃあ俺らってなんで生まれてきたんだろうな。どうせいつか死ぬのに」

 「わかんね。そんなこと考えたこともなかったわ」


 たしかに、と現在進行形で納得してしまった。確かに、人間みんないずれ死ぬのになぜこの世にいるのだろう。

 

 「まあでも」


 そう言って、彼は立ち上がった。飛び降り防止のフェンスに手を当て、グラウンドを見渡している。

 

 「死のうと思えば、今からでも死ねるんだよな」


 有太の言葉に不穏が感じがして、僕も立ち上がり、有太の隣に立った。

 雨上がりの、茶色で黒いグラウンド。大きな白い雲の間から日光がもれて、僕たちを照らしている。


 「なあ、有太」

 「なんだよ」

 「俺、死ぬ時はさ、後悔したくない。それだけでいいや」

 「夢とかは? こういうときって普通夢を叶えるまで死にたくないとか言うところじゃない? 」

 「いや、俺夢ないし」

 「……そうだったわ」


 昼休みの終わりを告げる予鈴が校舎中に鳴り響く。僕らは同時に振り返り、出口へ向かった。


 「あー、思い出したわ。絶対に譲れない条件」


 そう言って、彼はにやりと笑みを浮かべていった。


 「俺、絶対お前より幸せになる。それから死ぬ」

 「へいへい、そうですか」


 こうして意味のない会話をするのもいつか終わりが来ると思うと寂しくなる。

 けど、それ以上に彼の得意げな笑みがイマイチ気に食わなかったため、言ってやった。


 「数学のテストで32点だった現実は受け入れられたようですね、有太くん? 」


 挑発するように、声を高くして言い放った。


 「うおおい! それは言わない約束だろ!? 」

 「っ、ははは」

 「おい笑うな! 次は80点くらい取ってやるからな! 」

 「俺、今回のテスト88点」

 「じゃあ90点だ! 」


 そう言って、彼は恥ずかしかったのか、階段を高速で駆け降りていった。

 きっと、彼は僕以上に幸せになれるだろう。けれど、今だけは、僕は彼以上に楽しく、幸せな学校生活を送れているはずだ。

 

 たとえ、僕らの人生にどんな結末が訪れたとしても。

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