1章7節

1章7節

 この日この時この瞬間に、久しぶりの感覚を、サマルは感じていた。


 お天道様の下、自身の魔法が敵を蹂躙していく。逃げ惑う敵、立ち向かう敵に等しく死に場所を作る。そんな様を見て、これが本来あるべき自分の姿だと、そんな風に思っていた。


 かつての神との戦い、地球の創造主との戦争で、この感覚を味わっていた。早朝、天気の良い日、何者にも追われずに気ままに散歩をするような快適さ。そんな心地良さを、今まで味わっているはずだった。


 つまらない仲間の裏切り、ヴァイスの寝返りにより、戦争は終わりを告げ、地獄が始まった。


 サマルは山の地下深くに封印され、指の一本すら動かすことのできない状態になったのだ。


 3000年の長い年月、ちょうど1000年経つ頃、助け出そうとした悪魔崇拝者たちがいたが、計画は失敗に終わった。もう2000年、地獄は続いた。


 戦い、研鑽し、魔法の強さを求める悪魔にとって、苦痛という言葉ですら生ぬるい程のである。あの暗闇にずっと沈められていた。


(長かった。あの祭壇に魂を封印され、近くに瀕死の家畜がいなければ、逃げられない状態。それも終わった)


 神は乗り越えられない試練は与えない、その言葉を頭の中で思い浮かべていた。


(この猿を使ってヴァイスを始末、そしてこいつの魂を消し去って、俺は自由となる)


 自身に向かってくる隊長らしき男を、モルゼの放った弾丸をコントロールして、何度も貫き続けながら、物思いに耽っていた。


「隊長の仇だ」


 魔法使いの残党達が、気づけモルゼの周囲を取り囲んでいた。彼らは仲間の敵討ちを掲げ、雷や炎で攻撃を行った。


「隊長さんは尊敬されているようだな。安心しろ、今感動の再会をさせてやる」


 サマルはそう言って攻撃をいなし、モルゼが連射した弾、およそ16発で敵を蜂の巣にした。


「これで全員だな」


 モルゼは着陸して、ゲイル曹長の元へ駆けつけた。


「そこで止まれ、お前は、一体何者だ」


 曹長は銃を構えた。目の前にいる自分の部下が、魔法を使ったところを見ているため、これは当然の結果と言える。


 モルゼは狼狽えずに、手に持っている銃を投げ捨てた。


「安心してください、抵抗する気は――」


「あるに決まってるだろ」


 モルゼの後ろから現れた、亡霊のようなサマルの姿に、一同は恐怖した。背後からの声で、モルゼも後ろに姿が現したことに気づいた。


「待ってください、まずは話を聞いてほしい」


 モルゼの訴えを聞いたが、後ろの怪物に皆警戒している。


「話を聞けだと、あの光景を見て、落ち着いて話などできるものか」


 曹長は銃を構えたまま動かなかった。


「上等兵、大丈夫ですか」


 洞窟からアロンが出て、駆け寄ってきた。


「近寄るな一等兵、コイツは敵かもしれない」


「それについては聞かされています。冷静に考えてください。本当に敵なら、洞窟に居たまま見殺しにしたはずです」


「コイツからは、敵よりむしろ、何か禍々しいものを感じる。隊を預かっている身としては、警戒をしない訳にはいかないのだ」


 アロンの言葉を聞きつつも、ゲイルは疑いを持ったままだった、他の隊員達も同じである。


「許せよ上等兵、お前を拘束する。武器を捨てて大人しくしろ」


 ずっと大人しくしているだろ、そうモルゼは考えていたが、言う通りに従った。意外にも、悪魔は反抗せずに姿を消して、モルゼの体の中に入っていった。


 消えたサマルの姿を見て、ゲイルは周囲を見渡したが、姿が見えなかった。モルゼの近くへ行き、手錠で拘束すると、モルゼに告げた。


「上等兵、お前をロレンツィオ少佐の元へ連れていく」


 ロレンツィオ少佐はゲイル曹長の小隊が所属する遊撃隊の司令官兼スナイパーであった。大物の名前が出たことで、モルゼは少し驚いた。

 

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