2章1節

 小隊は洞窟から少し離れた場所にある、遊撃隊の所在地に、小隊はいた。遊撃隊の場所は常に同じ場所にあるわけではないため、GPSを通し、その場所が伝わっていた。


 曹長が無線で何かを伝えると、近くにあった天幕の中へ入った。おそらく本部の人間に事を伝えたのだろう。


「これから私はどうなるんでしょう」


 天幕の中、モルゼは聞いた。曹長は無視しようとも考えたが、それは酷だと考え、口を開いた。


「まず何があったか、少佐に説明してもらう。その上で、我々が見たことを伝える。そして少佐がそこから判断する」


「とりあえず、話は聞いてもらえるみたいですね」


 曹長が口を閉じてしばらくして、モルゼは思考を走らせていた。


(この魔法は戦況を変えることができる、それで助命嘆願は聞き入れてもらえる可能性はある。だが、こんな面倒なことをしないといけないとは……)


 ただモルゼ自身、魔法族からの差別は受けてきたものの、特段ひどい扱いを受けてきたわけではない。


 恨みがあるわけでもなく、それだけに力があっても、自身の手でこの戦争を終わらせようなどとは、考えていなかった。


 急に天幕の中へ、緊迫した雰囲気の兵士が1人、駆け込むように入ってきた。


「失礼、私は遊撃隊本隊のバルド伍長です。モルゼという兵士はおりますかな」


 その言葉を聞き、待っていましたとばかりに、曹長が反応する。


「ええ、ここにいる男が――」


「はい、私がモルゼです」


 バルド伍長と名乗る兵士はモルゼを睨みつけると、続けてこういった。


「貴様には重大な容疑がかかっている、着いて来い」


「なんだって」


 曹長は予想外の言葉に、開いた口が塞がらなかった。


「重大な容疑だって、一体なんのことです?」


「しらばっくれるな、いいから来い」


 モルゼはよく分からないまま、伍長に着いていった。曹長も伍長の話を聞くためと、事情を説明すべく、着いていく。


 今度は大きな黒い天幕の中に3名は入った。そこで目にしたのは、胸に小さな風穴を、蜂の巣の様に開けたロレンツィオ少佐の姿だった。


「一体、なんなんだこれは」


 曹長は唖然とした。


「あなた方が本陣に来る、そう伝えられてから、到着するまでの間のことです」


 伍長は詳細を語り始める。


「突然、銃声が。我々が駆けつけた時、すでに少佐は死んでいたのです」


 伍長の説明は続いた。


「我々は遊撃隊にいた兵士たち、全員に取り調べを進めていくと、ほとんどの兵士にアリバイがあることが分かりました」


「魔法族の仕業じゃないのか」


 曹長は浮かんだ疑問を、その伍長にぶつけた。


「ここはレーダーやらセンサーやらで魔法族の侵入をそれは厳重に警戒しているのです。それなのに1番大事な隊長のいる天幕に、侵入を許す訳がないのです」


 バルド伍長は外に居た兵士に呼びかけ、あるものを持って来させた。


「味方でなければ入って来れない、そしてこれが何よりの証拠」


 運ばれてきたもの、それは洞窟の前で落としたはずのモルゼの銃だった。


「あの銃がなんでここに……」


 狼狽えるモルゼに、伍長は淡々と説明を続けた。


「知っての通り、この銃はロックがかかっている。自分以外の兵士には使われないように」


 バルド伍長は銃を机の上に置き、再びモルゼの方へと身を向けた。


「手放した途端にかかるロック。そして、敵方に解けはしない、つまりだ……」


 モルゼは焦っていた。自身への晴らしようのない疑いに。


「待ってくれ伍長、コイツは我々と一緒にいた――」


「分身が何かでしょう、監視カメラにも写っています。魔法が使えるんでしょう、そいつは」


 曹長は必死に擁護しようとしたが、庇うことはできなかった。天幕にだけある監視カメラに、その姿を撮られていたからである。


 さらに、魔法で分身を生み出すことはでき、銃を撃つことも可能であった。


 もはやモルゼへの疑いは確かなものとなった。敵方のスパイとして、扱われることは確かである。


 (なぜこんなことに)


「おいおい、もう拘束はごめんなんだが」


 後ろにまた悪魔が現れて、話しかけてきた。


「まさか、お前が……」


 お前がやったのか、そうモルゼが言いかけた時だった。


「このまま捕まれば殺されるぜ。逃げるぞ」


 サマルは体を乗っ取ると、自身の居る天幕ごと風で吹き飛ばし、上空へと飛び立った。


 伍長も曹長も突然の挙動に、なすすべなく吹き飛ばされ、そのまま意識を失った。


 その2人を他の兵士が発見すると、モルゼは反逆者として、いよいよ四面楚歌となったのである。

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