1章6節

「曹長、レーダーに敵接近の反応あり。ここから3時の方向に敵10人です」


 その報告を受けて、ゲイル曹長は焦っていた。背面を山に囲まれたこの地形で、大規模な魔法による攻撃を受けたならば、タダでは済まないからである。


 科学族が戦争で不利な理由、というより魔法族が有利な訳は、高機動と高火力にある。急速に接近、そして大砲や爆弾で迎撃される前に殲滅する。今回もその例に漏れずにいた。


「ええい、我々はひとまず洞窟の中で仲間と合流する。そして奴らから身を隠し、洞窟に近づいたところを殲滅する」


 ゲイルは自身の部下たちにそう告げた。


「敵の接近はいつ頃か、レーダーで確認せよ」


「それが……」


 部隊は空を見上げて驚愕した。


「真上です、奴らは一瞬でここまで移動してきました」


「ちっ、全員退避だ。上から攻撃されては何もできん、洞窟へ避難するぞ」


 ホーミングミサイルなどの対空兵器がない中で、上空を飛び回る魔法使いに弾を当てるのは困難であり、故に空からの攻撃を防げる洞窟に逃げるのが得策だとゲイルは考えた。


「敵を捕捉した。一斉攻撃を開始せよ」


 魔法使い達のリーダーがそう叫ぶと、一同は杖を横にかざして力を込め始めた。


「敵は洞窟に逃げるつもりだ。入り口付近に撃て」


 魔法使いたちは上空から岩石と氷柱を発生させた。日の光が遮られるほど、おびただしい量の弾幕は、ゲイル曹長率いる小隊めがけて吸い込まれていく。


 不幸中の幸いか、今いるのはわずか3名ほどだったため、攻撃は命中しなかった。しかし、その人数のせいで、反撃の策は無いに等しかった。


 そんな無力な兵士達を見て、魔術師たちは優越感を感じていた。


「隊長、奴らに攻撃が命中していません。このまま地上に降りて攻撃を」


「焦るな、ここで着陸して近接戦闘に持ち込まれたら厄介だ。我らと奴らでは子供とアスリート程の力の差があるのだ」


「奴らなど恐るるに足らず、魔法の使えない敵が、自分達に敵うはずがない」


 魔法使い達の隊長は、迂闊な行動をしようとする部下を諌めようとした。


「おい、勝手な行動は――」


 その時、前方から弾丸が飛び出し、魔術士の体を貫いた。誰もが予想しなかった正面からの攻撃に対し、隊長格の魔術士以外はパニックになった。


「おい、誰かやられたぞ」


「敵はどこだ、このままでは危ない」


「静まれい、不意打ちのチャンスで敵の攻撃は一発、1人の可能性が高い」


 突然の出来事でも、男は冷静に指揮を取った。そして弾が飛んできた方向に敵がいないか探し始めた。


「見つけたぞ、あそこに飛んでやがる」


「やはり敵は1人か、隊長の言った通りだ」


 1人が発見し、それを聞いてまた1人と、銃を構えたモルゼの姿を捉えていく。


「お互いにバラバラになり、動き続けて攻撃せよ。着弾率を下げるのだ」


 男はじっとその敵を見つめていた、空を飛び、銃を構えた不思議な兵士の姿を。


「まずは1人目、あと9人」


 モルゼは銃の狙いを定めた。悪魔が拵えた特別製の武器である。


 この銃は弾を撃つと同時に風の魔法が発動して、弾丸がドリルのような風邪を纏う。撃たれた敵は直径20センチもの、文字通り風穴を開けられる程の威力だ。


 さらにサマルが魔法でホーミング機能までつけている。正確には弾に自分の魔力を込めて、手動でコントロールしているのだが、悪魔的な精度で的確に命中させていた。


「隊長、敵の攻撃により、我らの半数ほどがやられました」


「こちらの攻撃は全て避けられるか、あの謎の弾丸によってかき消されています」


 弾を装填、狙う、そして撃つ。この一連の動作で、まるで養鶏場の鶏が食肉に変えるように容易く、1人ずつ空から姿を消していく。


「こちらから無理に攻撃しようとすると、隙をつかれてやられる、ならば」


 隊長はまだ生き残っている魔導師たちに、敵に伝わらないように作戦を伝えた。


「私が囮になり、動きを止める。その隙を突くのだ」


 伝えるやいなや、隊長は自身に防御結界を纏わせ、敵にめがけて突撃した。


 

 


 

 

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