1章5節

1章5節

 戦闘が終わった洞窟で、不気味な静けさが暗がりに広がった。不思議なことに勝った者も負けた者も、皆等しく倒れていた。


 アロンがモルゼに駆け寄る。


「モルゼ上等兵、大丈夫ですか」


 アロンは倒れたモルゼを見てふと思った。確かに銃を捨てて魔法で戦っていた、ひょっとして実は魔法使いのスパイではないかと。


 しかし、味方に攻撃されるスパイなど、本来ならありえないはずだとも考えた。


 いくつかの思考が反芻する中、アロンは自分を助けたモルゼを助けることにした。


「敵はどこへ行った……」


 モルゼは体を起こしてアロンに尋ねた。


「動かない方がいいです」


 起きあがろうとするモルゼに言う。


「敵はもう居ません、あなたが全員倒してくださったのです」


「倒したのか」


 モルゼは辺りを見渡して敵の死体を目に入れた。


「まさか、あの悪魔――」


「その通り」


 2人は自分たちの間に突如現れた、幽霊の様なものを見て驚愕した。


「誰だ!」


 アロンは銃を構えた。


「落ち着けよ、コイツに当たるぜ」


 悪魔はモルゼを指差した。


「この敵は俺が倒した、コイツの体を使ってな、ただ少しハードなダンスだったようだな」


 楽観的に話し続けるそれを見て、アロンはその場で身構えた。


「自己紹介が遅れた、俺はサマル、ただの悪魔だ」


「そうだ、俺の体を乗っ取って、何が目的だ」


 モルゼはサマルを睨みつけた。


「目的か……」


 その悪魔は少し黙り込むと、思い出すように口を開いた。


「昔に神と戦った時、俺たち悪魔を裏切った奴がいてな、ソイツを始末することかな」


「神だと、それに裏切り者って」


 続けてサマルは話した。


「良い勝負だったんだぜ、なのにアイツはせっかくの戦争を台無しにしやがった。そんでその悪魔が、お前らの敵の将軍に取り憑いてるらしい」


「敵の将軍に、もしかして法皇のことですか」


 アロンが聞いた。


「多分そいつかな、ついこの間起きてすぐに、千里眼でソイツを見つけたんだよ」


 モルゼはサマルの話を聞き、疑問を口にした。


「信用ならねぇな、確か法皇って奴は神の代理人としての役職だったはずだ。それなのに神と敵対した悪魔とつるむかね」


 モルゼは弱った体を起こして、銃を拾いながら続けた。


「実はただのゴーストか何かなんじゃないのか」


「うーん、じゃあ証明しようか」


 サマルは目を閉じて、少ししたら口を開けた。


「お前の洞窟の外にいる仲間が、魔法使いに襲われてるぜ」


 サマルは冷たい口調で言う。


「無線をつけてみます」


 アロンがそう言って無線をつけると、応援要請がスピーカーから流れてきた。


「どうする、仲間を助けるのを手伝ってもいい、その代わり――」


「お前を助けろって言うんだろう、了解してやる」


「話が早くて助かるよ、たださっきみたいに魔法を使うとぶっ倒れるから、今度は少しやり方を変える」


 サマルは手に持った銃をじっと見つめる。


「これを使おう、ルーンの引力でホーミング弾にしてやる。そんで弾に魔法をこめる」


「銃で魔法を撃つのか?」


「さっき倒れたのは体から自然エネルギー、ルーンを取り込んで直に撃ってたからだ。それで体中の魔力を使い切って気絶した」


 サマルは説明を続けた。


「でも杖を使えば話は変わる。杖にチャージして魔法を使えば、消費するのは杖の魔力で自分の体の魔力は使わない。力も下手に溢れたりしないからね」


 手をかざすと銃に六芒星が現れた。


「さらにオプションの追加だ、空を飛べるようにしてやる。コイツは面白いことになりそうだ」


 モルゼの体に、土星の輪のような光のリングが2つ現れて、体が宙に浮かび始めた。


 目の前の人間に魔法をかけていく悪魔は、クリスマスにプレゼントをもらった子供のような、好奇心に溢れた目をしていた。


「さあ、パーティの始まりだ」


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る