1章1節

1章1節

 ヌルシナイ大陸中部には大きな山脈、レッドマウンテンがそびえ立ち、大陸を東西に二分していた。


 その山は神話において、神の軍勢が反逆者である悪魔の軍勢と対峙した山と伝えられ、山の地中には悪魔が今でも封じ込まれていると、語り継がれている。しかし、現代においては神と悪魔ではなく、魔法と科学が激闘を繰り広げていた。


 魔法使いの軍隊である法皇軍はその山脈のふもとから少し距離を置いたところに陣を敷いて、そこから魔法で山を飛び越えて、科学の兵隊である新国家軍を襲っていた。そうすることで法皇軍は一方的に攻撃を加えることに成功していたのだ。


 対する新国家軍は山を乗り越えなければならず、そのために2つの作戦を練っていた。


 1つは飛行戦艦で山を空から突破して、そのまま敵の本陣に攻撃を加えるというもの。この作戦なら切り札であるレーザーキャノンを敵陣に打ち込めるほか、兵士たちを輸送することで、一気に攻めることが可能となる。レーザーは密集している敵に打ち込む際、その真骨頂が発揮できるのだ。


 しかし、飛行戦艦を飛ばすとなると警戒しなければいけないことが1つある。それは敵が素直にレッドマウンテンの上空を泳がせてはくれないことである。


 当然戦艦に対して敵は攻撃を加えてくる。新国家軍の参謀本部である大本営は1度だけ、駆逐艦と戦闘機にレッドマウンテン上空の法皇軍への攻撃の指令を出したのだが、送られた駆逐艦1隻と戦闘機5機はすべて撃墜されてしまっていた。


 それぞれの戦闘記録を確認したところ、駆逐艦には100人の部隊を、戦闘機にはそれぞれ15人の部隊を向かわせていたことが判明したのだ。おそらく敵は何かしらの方法で山への侵入を感知し、こちらの戦力を明白にさせ、直ちに適切な部隊を向かわせたのだろうと大本営は判断した。


 これにより、戦艦だけでなく戦闘機も対処されてしまうため、航空機での突破は不可能だということが判明した。


 そのことが分かり次第、参謀たちはすぐに2つ目の作戦に移行した。山を歩兵たちに進ませて、そのまま敵陣に攻撃を加えるという、とてもむちゃな作戦であった。


 この作戦の問題点、それは補給にある。山を踏破するとそれだけで兵士たちは体力を持っていかれ、輸送車などのモービルも未開拓の道を進むのは困難である。兵士たちに物資を持ち運ばせて山を踏破させ、その上に戦闘するなど勝ち目があるはずない。


 このような無謀な作戦を考え始めるほど、新国家軍は追い詰められていたのだ。


 重い空気の大本営にて、レッドマウンテン周辺の地図に視線を落としながら、参謀の一人がこうつぶやいた。


 「せめて、山にトンネルか抜け道のようなものがあれば、この状況も解決できるのだが……」


 参謀として無理な命令を出すわけにはいけない反面、勝たなければならないという状況が故に、兵士だけでなく上官たちもみな疲弊しているのだった。


 

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