魔科戦記〜magic and science fiction〜

@laptop

序章

 時は人類生誕より1700年、人々は本来なら海に浮かぶはずの巨大戦艦を、大海ではなく大空に飛ばすこと成功してを成功していた。人類の科学文明は本来なら2000年以上かかるはずの技術を、なんと1700年で会得して見せたのだ。


「艦長、目標地点へ到達まで残り5分」


 飛行戦艦の乗組員の1人が、キセルを吹かした艦長に伝達を行っていた。


「うむ、目標到達次第、攻撃を開始する」


 この戦艦の目的はただ1つ。


「今度だ、今度こそ奴ら、魔法族を殲滅してやる‼︎」


 艦長は憎しみと怒りを込めた表情で、攻撃の指令を下した。


 時代は戦火の中にあった。魔法を操る魔法族と科学を学ぶ科学族は、ヌルシナイ大陸を東西に分け、対立していた。


 それまで1500年近く、魔法族たち西側諸国は魔法族のリーダーである法皇の下、科学族を支配下に置き、酷使していた。生まれつき魔法という優れた力を扱う彼らに、身体能力が優れているだけの科学族が叶うことはなかった。


 しかし、科学族は魔法族に対抗すべく、長い年月をかけて科学技術編み出した。その技術を用いて、未開の地であった大陸東部を開拓し、自らの国家を建国した。


 法皇は自らを脅かす敵に宣戦布告、それに対し科学族の首領である大統領も新国家軍を編成、こうして法皇軍と新国家軍の戦いが始まった。


「艦長、レーダーに魔術師と思われる反応を複数確認、前方に複数いる模様ですっ」


「よし、バルカン砲にて弾幕を張れ、そして動きの止まったものに主砲を当てるのだ、急げ‼︎」


「了解‼︎」


 戦艦は敵に向けて機銃を放った。だが、その結果が絶望的であった。


「か、艦長、敵は岩を操ってこちらの弾を防いでいます」


「慌てるんじゃない、壁を張るということは奴らにとって機銃は脅威ということ。」


 艦長は冷静に判断を下す。


「こういう時はだな、レーザー砲で岩壁を砕け、壁から飛び出したところを機銃で仕留めるのだ」


「はっ、レーザー砲起動」


 戦艦の巨大な筒より、青白い光が輝き始め、辺りを不気味に照らし始めた。


「チャージ完了、発射準備OK」


「よぉし、やれ、放て」


 戦艦は閃光を放ち、岩壁ごと敵を貫き、爆破した。少し遅れて爆音が響く。


「命中ですっ、やりました‼︎」


 レーザー兵器は、科学族の秘密兵器1つだった。ある鉱山で見つかった特殊な水晶を使い、貯めた熱量を光線として撃つ事で、当たったものを溶かして貫き、残骸は巨大な爆発を引き起こす。まさに兵器としてふさわしい代物だった。


「ま、待て、何か輝いている。一体なんだ?」


 だがしかし、それでも戦況は魔法族優勢であった。


「ぜ、前方に巨大な熱球を確認、一体あれは……」

 

 船員が前方を写されたモニターへ目をやると、そこには30人ほどの魔術師が作り出したとみえる、太陽のような炎の塊が浮かんでいた。


 赤く燃え盛るその炎は、まるで触れたものすべてを燃やさんとするような、そんな恐ろしさを放っていた。


「くっ、打つ手なしか」


 館長はつぶやいた、自らの現状を打開する策が思い浮かばず、絶望していた。しかしそれでも、蛇に睨まれた蛙のように、ただでやられてはならない、そう考えていた。


 「こうなれば1人でも多く地獄に落としてやれ、魔術師共にすべての弾を撃つのだ‼」


 館長は火の玉が接近してくるのを確認しながら、玉砕の指示を下した。


 (我らが機械を駆使し、貴重な燃料を費やし、やっとの思いで生み出す破壊力を、やつらは生身で打ち出すことだできる……)


 自身の死を覚悟して、艦長が真っ先に考えたこと、それはこの世の理不尽についてだった。


(生まれながらに魔法を使える者とそうでない者の差、それはとても大きい)


 そう考えている表情は、絶望を通り越して、もはや諦めに近かった。


 「ああ、艦長、敵の攻撃に被弾します」


 その伝達は絶望する男の耳には届かず、むなしく船内をこだまする。

 

(我らは先祖から何年もかけ、幾度も挑戦し続けて、やっとこの火力を手にしたというのに……)


 男は絶望していた。自分たち科学族が多くのものを費やして、それでも魔法族と対等、いやそれ以下である現状に。


 (この上全体の数でさえ、我々は負けている。一体何を捧げれば勝てるというのだ……)


 「このままでは、本艦は撃沈します。艦長――」


 男が人生で最期に見つけた憤り、その答えは見つけられなかった。


 魔術師が放った火の玉は戦艦を飲み込み、そのまま燃やし尽くした。火に囲まれたこの棺桶は、内部に熱をためた結果爆発を引き起こし、さらに燃料タンクに引火、止めとなった。


 この戦闘の結果、船員150人が死亡し、駆逐艦級の飛行戦艦が1隻失われた。それに対し魔術師は100人中約80人が死亡した。結果として、この戦いで失ったものは、科学族の方が大きかった。


 このような戦闘が各地で行われ、このままでは科学族の敗色が濃かった。


 しかし、ある1人の男によってこの戦況は覆されることになる。

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