第三章

 先ほどの集合場所を出て、俺は今ルーメン城を目の前にしていた。もう日はほとんど暮れていたが、日中と変わらないぐらい明るく、賑やかだった。

 城の中に入る前に、門番たちと目が合った。門番たちは驚いたような顔をすると、門番の一人が走って城の中に入っていった。

「ソル様、おかえりなさいませ。お待ちしておりました。」

門番が言う。敬語で話されるのは初めてで、なんだかむず痒かったが、悪い気はしなかった。

「ソル!」

女性の声が聞こえた。美しいドレスを身に纏った女性が俺の元に駆け寄ってくる。そして、女性は泣きながら俺を抱きしめた。

「ごめんなさい、ソル。今朝はお母様が強く言いすぎてしまったわ。さあ、ご飯ができているわよ。一緒に食べましょう。」

ルーメンの母親だと思われる女性は俺の手を引いて城の中に入っていった。

案内された部屋に向かうと、そこには大きいテーブルが部屋の中央に置いてあり、その上には、腐るほど大量な料理があった。ステーキやスープ、サラダにデザート。どれもこんな量は見たことなかった。

「え、これ全部食べていいの?」俺は驚いてつい口に出してしまった。隣にいた母親は少し不思議そうな顔をしたが、「もちろんよ。好きなだけ食べなさい。」と囁いてくれた。

 食事と湯浴みが終わり、今は俺の部屋に移動しているところだった。さっきの食事では食べたことのない料理ばかりだった。村で出てくる、焼いただけ、煮ただけの料理とは訳が違う。とても美味しかった。湯浴みももちろん初めてだった。水浴びならしたことがあるけど、香りのついた温かいお湯で体を洗うのはとても気持ちよかった。それにしても何から何まで広すぎる。一つの建物なのに、急いで移動しても数分はかかるなんて、信じられない。

 俺の部屋についた。高い天井に、大きな窓、そして宝石で装飾された壁。見たことがない光景を前に、俺はなんだか異世界に迷い込んだ気分だった。中央に置かれているベッドも四人は寝れそうなほど、大きいベッドだった。

俺はベッドめがけて飛びついた。ふかふかなベッドが、日々の厳しい訓練で傷ついた体を優しく包み込む。今日は特に色々なことがあった。そう思いながら俺は眠りについた。


次の日。俺はこれまでにないほど寝ることができた。

するとトントン、とノックの音と俺を呼ぶ声が聞こえた。俺が入っても良いと合図をすると、使用人が入ってきた。

「ソル様。今日のレッスンのお時間です。準備をしましょう。」

 準備をして、レッスンの先生がいる教室に移動した。ルーメンから借りた服からも思ったが、あまりにも複雑すぎて、自分一人で着れる自信がない。派手でかっこいいのは良いけど。

 今日のレッスンはテーブルマナーについてだった。椅子に座る姿勢からカップの持ち方、スプーンやナイフの使い方まで一から十まで教わったが、正直俺は頭がパンクしそうだった。こんなことしながら飯食って、美味しいと思えるのかも不思議だった。

間違った作法をすると、先生から「何やってるの!違うでしょう?一国の王になる人が、こんなマナーができないなんて…」と、さもできて当然かのように怒る。耳を塞ぎたくもなった。

 レッスンが終わって、部屋に戻ると、ひどく怒ったような母親がいた。その隣で不気味な顔をした少女がいた。

「ソル?昨日の今日でまた何をしたの?」母親の声は怒りというより、悲しみと落胆で満ちていた。

「何って、おれ…じゃなくて、僕は何もしていないですよ!」

「嘘おっしゃい!あなたがまたあのガラスの像を壊したのは知っているのよ!」

「僕が?いつ?」

「ついさっきよ!ルナが見たと言ってるのよ!」

ルナ?そういえばるルーメンがそういう名の姉がいると聞いた。といことは、きっとルナが壊したに違いない。しかも俺は、その頃謎のレッスンをしていた。

「僕はその頃テーブルマナーのレッスンをしてました!」

「その帰りにでもやったんでしょう?だって、その教室は中庭の目の前だもの。もう直せないほど粉々になっていたわ!」

ルナが言った。その顔はニヤリと不気味に笑っていた。

「もう私は我慢なりません。今日からあなたはもう城の中から出ることを禁じます。もちろん中庭に入ることも許しません。」

母親はルナの言葉ばかりに耳を傾けて、俺の話は全く聞こうとしない。

母親はもう話を終わらせ、俺の部屋から出て行った。ルナが最低だとは前から聞いていた。だが親も親でなかなか最低だな!親も親なら子も子だな!

「ふふっ、かわいそうなソル!あんなに城下町が好きだったのに…城から出られなくなっちゃった!」

ルナが満面の笑みを浮かべて話す。俺は怒りが込み上げて、腑が煮えくり返りそうだった。俺は立っているルナの脚を蹴り、地面に押し倒した。

「お前のせいで、ルーメンが家出するほど困ってるんだ!お前にはそれなりの報いを受けてもらう!」

俺はルナに向かってそう言うと、部屋から出て全速力で母親の後を追った。もうこんなところにはいたくない。もう懲り懲りだったが、このままでは帰れない。一言言って、あの村へと帰ってやる。あの村は、訓練は厳しいがそれなりに楽しくやれていた。

「おい!」

ルーメンの母親のもとにたどりついた。

「さっきのガラスの像も、昨日のやつも俺じゃない!全部ルナがやったんだ!中庭には警備をしていたやつがいるだろ!そいつから話を聞いて来い!証拠も何も無い薄っぺらい話を鵜呑みにすんな!」

俺は感情に任せて、ルーメンの母親を怒鳴り散らかした。母親は動揺したような顔をしている。

「……聞いてみるわ。」

ルーメンの母親はそう言うと、早足で警備にあたってた人の話を聞きに行った。

 

しばらくすると、ルーメンの母親が戻ってきた。

「話をきいたわ。あなたの罰をルナにしないといけないわね!」

ルーメンの母親はウインクをすると、すごい形相でルナのもとへと行った。そのうちに俺は城を後にした。遠くからルナを叱る声が聞こえる。

まだ約束の時間では無いけれど、今以外に帰れる暇はなさそうだ。村が恋しく思えてきた。

俺があの約束の場所に着くと、見覚えのある姿が見えた。ルーメンだ。

「おい、なんでお前がここにいる?」

「そういうウンブラだって。なんで?」

どうやら二人とも考えたことは一緒のようだった。思わず笑いが込み上げて、二人でしばらくの間笑い合った。

「お前の言ってたことを理解できたよ。お前の姉!最低だな。」

「僕も、ウンブラが家出した意味がわかったよ。僕には向いてなかった。」

「やっぱり、お互いにないものねだりだったのかもな。でもこれから村の暮らしを少しは楽しめそうだよ。」

ルーメンも同意するように頷いた。

「そろそろ帰るか。ちゃんと、元の場所に。」

「そうだね。」

「ねえウンブラ、僕良いこと思いついたんだけど。」

ルーメンが僕の耳元で「考え」を囁く。

「良いな!その考え!」

ルーメンはにこりと微笑む。

「それじゃあ、またね!ウンブラ!」

「ああ、またな!ルーメン!」

ルーメンをが見えなくなるまで見送り、俺も村へと帰った。

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