第二章

あの空き地から真っ直ぐ進むとウンブラ族の村に着いた。ここは家も人も質素で汚らしかった。言ってしまえば僕もウンブラと服を交換したから、汚らしい格好をしている。

「ソル、どこに行ってたんだ?またサボってたんじゃないだろな?」不意に後ろから声がして少し驚いた。振り向くと、片目に傷を負ったたくましい男がいた。その目は氷のように冷たい目をしている。

「ぼーっと突っ立ってないで、狩りとか村のためになることをしたらどうだ?」男はそう言うと、僕に弓と矢を手渡した。

今までずっとやってみたかった狩りができる!僕は獲物を探してガサゴソと森の中を歩き回る。こんな草をかき分けて歩くことが今までにあっただろうか。日が暮れてきて、暗くなってきているにも関わらず、僕の目は不思議と暗さを感じなかった。

ふと、空を見ると、寝床に戻ろうとする鳥の群衆が見えた。僕はその鳥めがけて弓を構えた。弓は以前、軍事訓練で教えてもらったことがある。先頭の一匹を狙って矢を射る。矢は不恰好ながらも先頭…ではなく、三番目の鳥の翼に命中した。矢が刺さった翼では風を掴むことはできずに、鳥はそのまま落下した。僕が、自分で、初めて、獲ることが出来た獲物だ。

 僕は先程獲った獲物を持って村へと帰った。村に帰った頃にはもう日が暮れていて、村の中心では、大人たちが今晩の見張りを決める会議をしていた。

「ソル、やっと帰ってきたか。その獲物は羽を取ってあそこに吊るしておけ。」

狩りに出かける前に会った男が言った。羽を取るってどうやるんだろう?偶然近くに同じような処理をしている人がいた。見よう見まねで処理をして、太い木の枝にくくりつけた。心なしか、隣の鳥よりも僕の獲った鳥の方が大きく見えた。

「お疲れ、ソル。日中見かけなかったけどまた逃げようとしたのか?」

自分と同じくらいの少年から声をかけられた。ウンブラの友達なのかもしれないが、困ったことに名前を知らない。昨日まで話してたであろう人が次の日になって記憶を無くしてるなんて奇妙なことはそうそうない。下手に喋るとボロが出る。

「何やってたのかは知らないけど、疲れてるみたいだな。早く寝るといい。」

どうしようかおどおどしていたら、話を終わらせてくれて助かった。

 僕が今日寝るところは、さほど広くない部屋で、僕と同じくらいの年齢の人が集まって寝ている。城のようにふかふかのベッドではないけれど、色々なことがあって疲れていたので気にせずに寝ることが出来た。

 

 次の日、夜明けとともに起こされた。こんなに早く起きたのは初めてだ。

「ソル!早くしないと訓練の時間に間に合わなくなるよ!」

昨日の少年が僕を連れて広場へと行く。広場には僕と同じぐらいの人、僕よりも小さそうな人で溢れていた。

「ソル!ラディウス!遅いぞ!いつまで待たせる気か!」

広場の中心にある岩のステージに昨日会った、片目に傷のある男がいた。そして、仲良くしてくれる少年の名前もわかった。

「よし。全員揃ったというところで、今日の訓練を開始する!今日の訓練は実戦形式で行う。武器なども使って良い。ただしとどめはさすな。一番最後まで生き残ったやつは今日の食事を一回多くしてやる。以上!」

男がステージから降りると同時に、殴り合い蹴り合いの乱闘が始まった。中にはどこからか武器を持ってきて振り回してる人もいた。

不意に後ろから殴られた。自分と同じくらいの黒髪の少年が棍棒のようなものを持って僕を殴ったのだ。黒髪の少年は棍棒を振りかぶってまた僕のことを殴ろうとする。また殴られたらたまんない!できるだけ距離を離そうと、僕はすかさず逃げ出した。

「なんだよソル!もしかして、この俺様の気迫に押されて怖気付いたか?」

遠くのほうからその少年の声が聞こえた……かと思うと、脚を後ろから突かれ僕は倒れ込んだ。さっきの少年だ。かなり距離があったのに、ものの数秒で追いついてしまった。

 それからの記憶はない。


 気がつくともう訓練は終わっていた。僕は広場の端で倒れ込んでいた。太陽も高いところまで昇っている。話によると、今回の訓練で最後まで生き残った人は、僕を倒したあの黒髪の少年だったらしい。

起き上がった瞬間、全身に痛みが走った。もしかしたら、骨の何本かは折れているかもしれない。

痛む体を引きずりながら村へと帰ると、丁度みんな食事をしているところだった。村の女性たちで昨日狩った獲物を調理して、訓練後の人たちに手渡している。そういえば昨日の夜から何も食べていないことに気がついた。僕も食事をもらいに行こう。

食事をもらう列に並んで、僕のもらえる番がきた。食事を渡してくれる少女は微笑み、お椀に入った食事を差し出した。「お疲れ、ソル。」そう言ってくれた気がした。僕も釣られて微笑み、食事を受け取ろうと手を伸ばす。手の先に何かが通り過ぎ、お椀を吹き飛ばした。吹き飛ばしたものの正体は大きな斧だった。斧は壁に突き刺さり、お椀は砕けてしまった。この斧を投げたのは誰?投げられた先を見てみると、あの、片目に傷がある男がいた。

「お前が今日食える飯はない。訓練に遅れてきた上に、実戦では逃げ回ってばっかだったからな。」

僕は驚いて少女の顔を見るが、困ったように目を逸らした。僕は諦めてその場から去った。

 お腹が減った。体中が痛い。ふかふかの布団が恋しい。僕はこっそり村から出て、約束の集合場所に向かった。僕にはこの暮らしは合わないようだ。集合は明日の朝だけど、もうこの村にはいたくなかった。

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