4.ソラ VS 幼馴染


「G滅ぶべし!」

進東しんどうさん?」

「いずみさん!」

 闘技場の真ん中までやってきた進東いずみは鋭い眼光をフリオたちに向けた。


 進東いずみ…フリオの幼馴染。といっても、中学二年生になるまでずーっと同じクラスで、周囲が勝手に幼馴染認定していただけだ。

 いずみ自身は、チビで醜いフリオとは極力関わらないようにしていたのだが。


 いずみはベンチにいるフリオを睨みつけた。

「あんたが幼馴染だってことが心底嫌だったわ。クラスメートにからかわれるたびに絶望で死にたくなった。あんたの存在があたしの人生の最大の汚点だわ」


 フリオの隣に腰かけていたソラがベンチから立ち上がった。

「フリオ、ここはあたしにまかせて」

「ソラ」

「フリオが誰のものか、はっきりさせてくる」

 フリオは舞台にいる幻洋に声をかけた。

「兄さん、チェンジだ。ソラが戦うって」

「おう! ソラちゃん、ガンバだぜ」

 幻洋が下がって、ソラが闘技場に上がった。


 闘技場の真ん中で、ソラといずみは対峙した。

「誰が出て来ても同じことよ。誰もあたしを止めることはできないわ」

「フリオはあたしのもの。誰にも渡さない」

「くれるといわれてもいらないわ!」

「幼馴染にだって負けない、フリオの全てを知るのはあたしだけ」

「一ミリたりとも知りたくないわ!」

「夜のフリオはとてもエッチなの。毎晩あたしを求めてきて、それであたしは身も心もトロトロに溶けてフリオとひとつになるの。フリオはあたしの喜びの全てなの」

「やめて! そんな話ききたくない!」

「フリオとの閨事ねやごとを幼馴染なんかに邪魔させない!」


「ああ、耳が腐る、反吐が出る、脳みそに蛆が湧くわ!」

 大きく息を吸って、いずみは叫んだ。

「ひれ伏しなさい! あたしの能力は、世界のことわりを書き換える魔法よ!」


「なっ!」

「そんなトンデモ能力、ありなのかよ」

 電光掲示板に映し出されたいずみのステータスを見て、フリオと幻洋は愕然となった。


【名前】進東いずみ

【職業】魔術師

【能力】たった一度の冴えたやりかた(世界改変魔法)

【称号】五木フリオの幼馴染


「一生に一度しか使えない、たった一度の世界改変魔法だと!?」



 憎悪に満ちたいずみをソラは静かに見つめた。


「世界を改変したところで、フリオの心は変えられないよ。進東いずみさん」

「Gのぶんざいで馴れ馴れしく名前を口にするな! 穢れた口を閉じろ!」

 いずみは憎しみの炎をメラメラと燃え上がらせた。

「思い返せば、今この瞬間のために、あたしは産まれて来たのかもしれない。フリオの幼馴染という汚名を甘んじて受けたのも、この時のためだったんだわ。因果はめぐり、あたしは究極の魔法を手に入れた。このチャンスを逃さない、あたしは必ずGを滅ぼす!」


 光の線が走り、青い空に巨大な魔法陣が描き出されていく。


「やべえぜ、フリオ! オレのGセンサーがビンビンに反応してやがる! 魔法陣を完成させてはならねえ。世界の理を書き換えられたらオレたちゃ存在できなくなっちまう。無に還るんだぜ!」


 ソラはいずみと対峙したまま一歩も動かない。


 フリオは青空に手をかざした。

「集え同胞たち、反撃の狼煙を上げろ。革命の時は来た。Gレボリューション!」

 フリオ呼びかけに応え、異世界中のGが集まってきた。

 青かった空は真っ黒に染まり、Gたちがブンブン飛び回った。


「まるでこの世の終わりのような光景だ」とクラスメートの誰かが言った。


「進東さんを守れ! 五木たちに邪魔をさせるな!」


 クラスメートたちが闘技場に上がって、いずみをガードした。


「進東さん、私たちが盾になるから、早く魔法陣を完成させ…、ピタッ(Gがほっぺにはりついた!)、きゃああああーーーーっ!」


 世界を覆うほど巨大な魔法陣が完成しようとしていた。


「くそっ、どげんかせんといかん! どげんかせんと!」


 幻洋が叫ぶが何も打つ手がない。


 フリオと幻洋を見ていずみが、ニタァーッと凶悪な笑みを浮かべた。


「ヤバイ!」


「完成したのね、進東さん!」


 コクリとうなづいたいずみは、滅びの言葉を口にした。


「パラケル■ス」


「ここだわ!」


 ソラはいずみの口の中に白いGを一匹投げ込んだ!


 ぐちゃ!


 いずみがGをかみつぶした音がした。


「おえええええええええええっ!」

 いずみは激しく嘔吐した。


「勝利を確信したときにこそ隙ができるの。賭けはあたしの勝ち。フリオはあたしのもの」

 ソラは嬉しそうに宣言した。


「うわああああああああああああああん!!!」

 いずみは大泣きだった。


「Gいっぴき食ったくらいで、大げさなやつだな」

 幻洋があきれて言った。


 保健委員の川本真理がフリオたちをにらみ、いずみの肩をだいて闘技場から連れ出した。

「あっちで休もうね、進東さん」

「ひっくっ、もうやだ…おうちにかえりたい…」

「うん、いまはゆっくり休もうね」


 こうしてフリオの幼馴染進東いずみは戦線から離脱した。

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