第7話 受付オッサンの耳に念仏
そのまま正面のカウンターに向かい、1人の受付じょ…うに行きたかったが隣の席にいるオッサンが手招きしてきた為、なんとなくそちらに向かう。
そのオッサンの受付以外は列ができているのに、何故かオッサンの受付だけは閑古鳥が鳴いていた。
「よ〜坊主…ヒック。首都サンデル冒険者ギルドにようこそぉなんつってなぁ…ギャハハ!」
「え…っと???」
原因が分かった。このオッサン、昼間から酒飲んでやがる…!?えっ!?こんな奴が首都サンデルにある冒険者ギルドで受付できるのかよ…やっべぇー所じゃん。
「おい!なんか用があんだろ!?さっさと言〜え〜よ〜!!!」
なんか腹立つ…ガラの悪いヤンキーかよ。早速変な奴に捕まっちまったぁぁあ!!!
「あっ、うす。うちの村、クノックス村っつう所なんすけど、龍が来てしまって自分以外の村人が全滅したので伝えておこうという感じっすね。自分は途中で応戦してたら吹き飛ばされてしまって、そのまま気絶してたのでなんとか助かったって感じっす」
簡潔にクノックス村全滅&生き残った理由を伝えてみると、受付オッサンはボーっとした顔をして、一言。
「あっそう」
…で、終わった。その態度に驚いてこちらが一時停止してると受付オッサンは酒を一飲みし、ぶはぁーっと息を吐く。…酒臭い。
「そんだけの用ならさっさと帰れ!くだんねぇー嘘に対応する程、俺様ぁー暇じゃねーんだよっ!!!しっしっ!」
「あっはい。貴重な時間をこんな用で潰させてしまって申し訳ございません。それでは、失礼させて頂きます」
なんかもう馬鹿らしくなったので丁寧な言葉で話し、相手を刺激しないようにする。
こういう輩は真面目に反応すると余計なことをしてくるから下手に出てさっさと別れるのが良いと知っている為、頭を軽めに下げて冒険者ギルドを後にする。
ファンタジー物だと大抵の場合、ああいう輩は親が偉くて周りが何もできない権力とか持ってるパターンが多いから、関わらない方が平穏に過ごせる。
まぁ、こんな国はさっさとおさらばさせて貰いますんで、どうでもええんですが…。
一応、この国出身の者としての義務で情報は伝えてあげたんだし、義理は果たした。
これで後腐れなく、化け物がいるかもしれない国から逃げられる。俺は絶対今回の人生は前回よりも長生きしてやる!
門番にも情報を伝えてあるので、そのうちこの国の上層部とかにも伝わるだろう。
さて、予想に反して暇になった訳だが、隣の国『アーバン』にでも行く準備でもしようかな。あー、一応この国の名前は『パイラノート』って感じ。
地図上ではこの国パイラノートは小国で右の端っこ辺りにある。隣の国アーバンは大国で真ん中に位置している。アーバンの上側には魔族の国である『パンデモニア』、下側にはエルフの国『フェアニクル』、左側には様々な種族の獣人が集まってできた国『ビースター』がある。
どの国も戦争とかはなく平和である。基本的にどの国も魔物の対応に精一杯で戦争する暇がないというのも理由の一つだが…。
何故、隣の大国アーバンかというと…アーバンはこの国パイラノートよりも様々な点で発展している為、住みやすいということや地図上では真ん中に位置していることから周りの国より様々な種族が来ることで、多様性に富んでいるということが挙げられるからだ。
更に、パイラノートでは国が独占している為に一般解放されていないダンジョンを、アーバンでは冒険者ギルドに加入することで、探索することができるということが何よりもでかい!
ここでダンジョンについて説明しよう!
この世界のダンジョンは異次元に存在しているとされている。何故なら、ダンジョンへの入り口である門をくぐると草原や洞窟、火山、雪原などに転送されるからだ。くぐり抜けた先にも門はあるので再度くぐることで、元の場所に戻ることもできる。
ダンジョンの中には宝箱が存在し、中には現時点で作成できない魔道具や金銀財宝、武器や防具など様々な物が入っている。また、ダンジョンの難易度が高ければ高い程、宝箱の中身は良くなっていく。
ダンジョンでは魔物が常に徘徊しており、倒すことで地面に吸収されて、その魔物に関連する物が出現する。死体の解体が必要ないので楽であるし、綺麗な状態で出てくるので加工がしやすいなどといった利点がある。
ダンジョンの最奥にはボスの魔物がいるという噂があり、強力ではあるが倒すと特別な物が手に入るらしい。Sランクの冒険者の中にはその特別な物を持っているという人はいるが本当かどうかは分からない。
最後にダンジョンは最奥のボスである魔物を倒しても消失したりしない。公の事実という訳ではないが消失してたら流石に記録に残っているだろうから分かるはずだ。
以上のことから、俺は隣の大国アーバンに行こうとしている。行く方法としては簡単でアーバン行きの馬車があるので料金を支払って乗せて貰うだけでいい。
まぁ、途中の食事や寝床の設置などは各自の自己責任でって感じなので買い出しは必要である。
寝袋やテント、日持ちする食糧や水、着替えの服など用意する物はまぁまぁある。村長宅から持ってきた金貨や銀貨があるのでお金にはしばらく困らない。
なので、この後は暇になった時間で買い出しを済ませる。大荷物になるがレベルがある程度上昇している俺には苦にならない。
様々な物資が入っている大きな鞄を背負って歩き、アーバン行きの馬車を探して予約をする。どうやら明日には出発のようなので、今日は近くの適当な宿屋に泊まる。
宿屋の質素なベッドの上に寝転びながら、今日一日で使用した金貨の数を考えると金貨10枚くらい使用したことが分かった。残りの金貨は50枚くらい、銀貨は30枚くらいあるのでまだ懐には余裕がある。
この世界の硬貨には聖金貨、金貨、銀貨、銅貨があり、各10枚で上の硬貨になる。日本円に換算すると大体銅貨1枚で100円くらいなので銀貨が1,000円、金貨が10,000円、聖金貨が100,000円くらいの感覚だ。
よって現在の所持金は金貨53枚、53万円くらいで今日は10万円は使ったことになる。
この世界では串焼き1本が銅貨1枚なので、前世の日本に比べると安価だ。金貨53枚相当もあれば、贅沢しなくて半年くらいは余裕で生活できる。
ここで、気になることがあるだろう?安価なばずなのになんで金貨10枚も使用したか…理由として、食糧は安価だが胡椒や塩などの調味料は馬鹿高いことが挙げられる。
飯の味はやっぱり大切!元日本人として、今世基準では舌が肥えているのだ。この世界の味気ない飯とかマジ病院食じゃん。俺は…俺は!塩胡椒やニンニクの効いたうめぇ肉とかが食いてぇんだ!!!
まぁそんなことを考えていると、少しずつ眠気が襲ってきたのでそろそろ寝て、明日に備えようと思う。
そっと近くの机に置いてある蝋燭の火を消して目蓋を閉じる。
すぐに意識が沈んでいき、やがて寝息が聞こえるようになった。
翌日になり、荷物の整理をしてから宿屋を出て予約したアーバン行きの馬車がある場所に移動する。
特に何か起こることもなく、馬車に乗ってパイラノートの首都であるサンデルから出ることができた。
ここ首都サンデルから隣国アーバンまでは大体1週間かかる。イベントがあったとしても3日後くらいに関所を通りかかるくらいだ。
道も整理されているし、馬車には護衛の冒険者も複数人いるので安全は確保されているから安心してアーバンまで行ける。
風景が移り変わるのを見ながら、何気なく道の側にある森の中の気配を探す。
これはスキルとかでは無く、魔法の源である魔力を探知する方法、要は技術だ。
この技術については魔法を使っている時にふと自分の魔力を感覚で理解できるのなら、似たような感じで他者の魔力も感覚でなんとなく分かるんじゃね?と思いついて試したら何故かできたものだ。
森の中の魔力を探知していくと、比較的に弱目に感じる魔力が数十体程固まって移動していることに気がついた。
その魔力はどうやら、この馬車に向かって来ているようだ。多分だが、この馬車を襲うつもりなのだろう。
戦闘になって馬車が足止めになるのもめんどくさいので魔法でサクッと殺そう。
今回は二重魔法を使ってみよう!
二重魔法の使い方は簡単だ。魔力を雷属性と聖属性に分けて変換し、その2つの魔力を交互に編み込む。その状態で形と効果を付与することで魔力が完全に混ぜ合わさる。
最後にトリガーとなるキーワードを適当に設定すれば良いだけだ。
…では、早速やってみよう。魔力を2つの属性へと変換して交互に編み込む。今回のは矢の形にし、効果は分裂と的中度上昇を付与しよう。キーワードは『浄化の雷雨』だな。
「浄化の雷雨」
バチバチと音が鳴る1本の白亜の矢が森の木々を避けて進んでいった。一瞬で見えづらかったが白亜の矢は進みながら1本から何本にも分裂していた。
《ギャオオォー…》
こちらに向かっていた集団の魔力は次々に数を減らしていき、それに伴い森の奥から断末魔の叫びが小音で響く。
「ふぅ…」
やがて、最後の魔力が消えたことが探知によって理解でき、呼気が漏れ出る。
二重魔法『浄化の雷雨』に魔物が当たった場合、予想できる光景としては…的中後に全身に麻痺が発生し、動けない状態で的中部位から聖魔法が毒のようにジワジワと広がり崩壊していくことが予想される。
聖属性は魔物にとって効果は抜群なので、魔物の体には毒と同然である。前世のような強さはないが雷魔法で十分補助可能だと思うから今世は上手くやれそうだ。
襲撃のしの字も気づかないまま、アーバン行きの馬車は歩みを進めていく。
暇なので魔力を球体にし、お手玉をするように動かして操作能力を上げておく。
始めは1つで動かして、段々と球体の数を増やしていく。更には雷属性に加えて、聖属性へと球体の魔力を変換していく。
これによって魔力の変換能力も鍛えられるので一石二鳥となる。
集中して練習しているとその後は特に襲撃もなく、あっという間に時間が過ぎて、太陽の光も赤みを増してきた。
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