第6話 そしてクノックス村は■んだ

 月日は流れて、首都サンデルで主の加護を授かってからもう5年も経った。


 ちなみに今、一人称は小生→僕→俺となっている。

 小鳥遊 照星だった時は名前とかけて小生と自分のことを呼んでいたが今回の人生の名はショーンなので特に理由もなく、年齢的に俺かなって思ってそうしている。


 別の世界、要は異世界に転生したっぽい事はこの約5年間で理解した。現在は「ファンタジー物の小説や漫画でよくある異世界転生って実際にあるんだなぁー」って感慨深く思いながら、今の人生を精一杯生きている。


 クノックス村に帰ってきてからは授かったスキルを使いこなす為に雷魔法はクノックス村の周辺に現れる魔物を倒しながら練習し、聖魔法はクノックス村で怪我をした村人達を相手に練習した。


 初めは魔法の使い方がよく分からなかったが幸い、クノックス村には火魔法や水魔法、土魔法を使える人達がいたので畑仕事の休憩中とかに話を聞きに行った。


 魔法の使い方は意外と簡単だった。

 詠唱とかそういうのはなく、腹の奥底にある丹田を意識して魔力を引き出し、その魔力を使って頭の中で想像した魔法を現実に引き起こすだけだ。


 詠唱は本来要らないが想像力を補助する為に魔法を発動させるトリガーとして火魔法だと火矢や火球、水魔法だと水矢や水球といったようなキーワードを設定して言葉に出して発動させるそうだ。

 想像通りに魔法が発動しなかったら、大体の場合、魔力が足りないか魔力を操作する力が十分に育ってないかが考えられるらしい。


 あ、そういえば魔力を限界まで使用すると気絶する。そして、多少だが魔力の限界値が上昇するので毎日寝る前に魔力を使い切ってから寝ることにしている。聖魔法で肉体等を回復してから寝ると次の日、体調が良くなるので日課となった。


 練習の成果もあって様々な雷魔法や聖魔法をある程度使える様になり、更に2つの魔法を混ぜ合わせた二重魔法を生み出した。とても興奮したが庭先で使ったことで花壇を荒らしちゃって母親に怒られたけどね。


 そんな生活をしているとレベルもある程度上昇し、段々と停滞し始める。

 クノックス村の周辺ではもう強くなれないなぁと感じながら畑を耕している時、山々が連なる方向をふと見ると空に黒い点が見え、時折太陽光を反射している。


「何だろう、あれ?」


 不思議に思いながらずっと眺めていると空に見えるその黒い点は段々と大きくなって翼を羽ばたいているように見える。


「翼があるってことはワイバーン系の魔物がこちらに向かってる感じかな?ワイバーン系の魔物とはまだ戦った事がないから良い経験になるかもしれんな…よし!とりあえず、魔法を撃つ準備だけしておこう」


 腹の奥底の丹田から魔力を腕先へと集め、魔力を圧縮する。魔力の圧縮をすると魔法の威力が体感1.5倍くらいになるので余裕がある時はなるべくするようにしている。

 次に圧縮した魔力に方向性を持たせる為、雷属性に魔力を変換する。魔力を圧縮している場合はこの時点で魔力が目視できるようになり、青いプラズマがバチバチと顕現する。

 最後に変換した魔力に効果と形を与える。今回は北欧神話?に出てくるオーディンっていう神が使用する武器でグングニルという槍を参考にする。


 あまり神話を忠実に再現すると必要になる魔力が膨大な量になるので今回は的中度上昇と貫通力強化の2つの効果だけにしておく。

 雷魔法には本来、音よりも速く動くという特徴が備わっている為、合計3つの効果だな。


 効果付与が終わると変換した魔力を槍状に変化させ、頭上に待機させておく。


 後はトリガーとなるキーワードは『グングニル』そのままにしておく。地味に考えるのめんどくさいから仕方ない…うん。

 『グングニル』と声に出して言えば、雷魔法として発動し、対象となる敵までぶっ飛んでいく。


 と、雷魔法を準備しているうちにワイバーン系の魔物の姿がよりはっきりと見え、想像していたワイバーン系の魔物よりも逞しくてなんか…大きい?


「まぁ、いいか。射程範囲内にそろそろ入っただろうし…グングニル!」


 雷魔法『グングニル』が発動し、頭上から一直線に青いプラズマを発している槍が魔物に向かって瞬きの間もなく飛んでいく。


 そして、魔物に的中した時…青い槍が弾けたように見えた?


「…へ?貫通してなくない?どゆこと?」


 疑問に思いながら、ずっと見続けていると先程よりも猛スピードで魔物がこちらに向かってくる。そして、その姿が鮮明に見え始めて驚愕した。


 …なぜならば、その魔物はワイバーン系の魔物のようなちんけな魔物ではなく、なんとより上位種の魔物である黒魔龍であった…やらかした。


《ギャォォオオオオ!!!》


「あっ、この村&俺っちオワタわw」


 人ってどうしようもなくなった時って思考バグるんだってことが分かりました。

 …はい、やらかしたぁぁぁあ!!!


 とりあえず、雷魔法『雷化』を発動して一旦黒魔龍から距離を取る…要は逃げの一手。

 雷魔法『雷化』は一時的に自身の肉体を雷に置き換える魔法だ。普段は急いでいる時に使う移動用魔法でもある。


 これは逃げたんじゃぁぁああない!戦略的撤退だぁぁぁあ!!!と心の中で咄嗟に言い訳をしつつ、クノックス村の建物の陰に身を隠し、雷魔法『雷化』を解除する。


 黒魔龍は俺を見失ったのか周りを見渡し、発見した第一村人目掛けて飛翔する。


「…っ!…っぁ!」


 その村人は恐怖に飲まれているのか、声を発せず、その場で腰を抜かしている。そして、そのまま黒魔龍に捕食された…プギャー。


 ほうほう黒魔龍は人間を食べると…これ、逃げて正解じゃね?流石、俺!


 その後は黒魔龍の一方的な捕食を見せつけられた。奴は発見した村人を喰らって殺し、戯れにその御立派な爪や牙で切り裂き貫くを繰り返した。


 これが弱肉強食…ゴクッ。今、奴がこの村を蹂躙している原因は俺だけど、何もせず放っておいてもこっちに向かっていたことから同じ結果になっていたし、滅びの時間が少し延長されるかされないかの差だし、俺悪くない!


 やがて黒魔龍は満足したのかクノックス村から飛び去ったのが遠目に見えた。ちなみに村人は俺を除いて全員全滅さ☆ヒャッハー


 父親は黒魔龍に母親が狙われた時に母親を全身で庇って喰われたし、その後に母親も父親の後を追って喰われたぜ☆


 更に、首都サンデルへと一緒に行った子供達の内、カーバンとダイ、シニルの仲良し3人組男子は互いに励まし合いながら、終始逃げてたけど上から飛んできた黒魔龍に踏み潰されてグシャっと地面のシミになった。

 アリーとサリーの双子の女の子は黒魔龍に灼熱のブレスを吐かれて、こんがり上手に焼けましたー!ってか。まぁ、こんがり焼かれ過ぎて炭と化していたけどな。


 あーそうそう。丁度クノックス村へ商売に来てたクズリアムも自分の商品守って、その商品ごと黒魔龍によって爪で切り裂かれた。

 クズリアムの頭が隠れてた俺の前方に飛んできた時は少し焦った。

 …なぜなら、その頭がこちらを見ながら、生簀の鯉のように口パクパクしてたから。


 そういえば、村長があの黒魔龍を見て、「奴は…邪龍グラム!?何故、あの邪龍がこの村を襲っているのじゃ???」って叫んでいた。

 まぁ、その後すぐに名前を呼ばれたことに対してキレたのか村長は黒魔龍の尻尾に叩きつけられてペシャッと民家の壁の模様にされたけど…。


 俺も最後辺りで見つかってしまって、黒魔龍のブレスによって焼かれそうになったけど、残っていた全ての魔力を総動員してバリア系の聖魔法『アイギス』を発動しながら後ろに飛んで、ブレスの衝撃によってわざと吹き飛んだので助かった。

 黒魔龍も自分自身のブレスに自信があったのか俺を態々探そうとはしなかったのも要因だろうけど。


 吹き飛ばされた時に木の枝等にぶつかったことからくると予想される体中の痛みを無視して吹き飛ばされた地点からゆっくりとクノックス村に戻る。

 

 念の為に生存者はいないかと思い、探索を開始する…運の良いことに生存者はいなかった。いたらいたで目撃者は消さないと俺が原因でクノックス村が滅ぼされたなんて言いふらされたら困るからさ。


 俺は冒険者ギルドに奴…故人の村長曰く、『邪龍グラム』が現れ、クノックス村を滅ぼしたと伝えようと思い、落ちていた邪竜グラムの鱗を集める。幸い、2枚ほど落ちてたので物的証拠はこれで十分だろう。この漆黒の鱗にはかなりの魔力が残留しているため、調べれば自ずと分かるはず。


 その後、身の着のまま生きていくのは正直無理だと感じたので村長の家があった場所を探して、そこから村長が緊急時に溜め込んで隠していた金貨や銀貨の入った袋や役立ちそうな物を見つけ出して、首都サンデルまでの旅路を歩み始めた。


 昔通った旅路を肉体強化系である聖魔法『聖鎧』を発動して走り抜け半日程で首都サンデルに到着した。ちなみに聖魔法『聖鎧』にはある程度のレベル以下の魔物を寄せ付けないという副次効果もあったりする。


 途中で昔護衛してくれていた冒険者のルーカスを殺したクリムゾンベアに出会ったが、雷魔法『雷針』で文字通り瞬殺した。雷魔法『雷針』は対象の脳天に飛翔し、刺さることで脳内に雷が走り回る魔法だ。

 犠牲になったルーカスの仇をとった感じになったが正直、どうでもいいので感慨深く感じたりはしなかった。


 首都サンデルの正門で門番の人に軽く事情を説明し、通してもらう。念の為、村長宅を漁った時にあった村長代理に持たせられる証を持ってきていたのでそれを見せることで楽に通してもらうことができた。


 首都サンデルの街並みは中世ヨーロッパ風で街灯や石畳が立派な城までひかれており、沢山の人が日常を過ごしていた。

 通常時なら田舎者丸出しで近くの店や屋台を見渡していただろうが今はやる事があるので諦めて足を動かす。


 門番の人に冒険者ギルドの場所を聞いていたのでその通りに街を進む。

 やがて、辿り着いた冒険者ギルドは2階建てであり、何人かの武器を携帯している冒険者っぽい人や依頼でもしに来た商人っぽい人が出入りしていた。


 恐る恐る入り口の扉を開き、中に入ると、正面にはカウンターがあり、右手側には酒場が隣接され、左手側には解体場があった。

 そのまま正面のカウンターに向かい、1人の受付じょ…うに行きたかったが隣の席にいるオッサンが手招きしてきた為、なんとなくそちらに向かう。

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