ピーターパンの少年
秋風夕顔
ネバーランド
「俺にはその光でさえも眩しいんだ」
夕日が照らされ辺り一面オレンジ色に焦げるような野原で君はそう私に言った。恵まれた環境の中で生きてきた私と恵まれてない環境で生きてきた君。最後の私達の旅の終着点で君は私を突き放した。
彼と出会ったのは私が周りとの壁を感じ学校に行けなくなった時だった。学校に行くふりをして制服を着て家を出た。学校にも家族にも嘘をついて何も知らない行き先も分からない電車に乗った。今の気持ちと裏腹な天気が鬱陶しい。差し込む光から避けて私はボックス席に座った。
どのくらい経ったのだろう。いつの間にか寝落ちていた私は変わらない静かな車内の中を半目で見渡した。すると、乗車する前にはいなかった向席に黒髪の男の子が窓を眺めていた。その子も私と同様制服を着ていて学ランだった。流石に見つめすぎるのはよくないので紺色のシワのついてないスカートをぼーっと眺めていると。「こんにちは」そう彼が話しかけてきた。
急に話しかけられた私は小さな声で返事を返した。「こんにちは……」「こんな時間に電車乗ってるなんて君珍しいね」内心、いやいやそれは君もだろと感じた私はとんでもない人だとまず第1印象ですぐにわかった。「どっか行くの?」「学校じゃないの?」「それは君もでしょ」思わず反射的に答えてしまった。すると彼は「やっとちゃんと喋ってくれた」と笑顔で私に声をかける。「もうなんなんですか?」「俺と一緒なのかな〜って思って」陽気な雰囲気で私に言う。「ねぇ、今から一緒に遊園地に行かない?」
その言葉で思考回路が止まった。
「ん?どういうこと?」
「そのまんまの意味だよ!こんな時間にここに居るんだから学校いかないでしょ?だから行こうよ!」
淡々と話す彼に圧倒される私。
いいよ以外は受け付けないという顔でこちらの返答を伺ってくる。
その誘惑の言葉にまんまと騙された私は(今日くらいいいよね)と心の中で思い彼の意見に賛同した。
「いいよ、行こ」
「いいの!じゃあ案内するね!俺知ってるから!」
いつの間にか着いていた次の駅でおりる。
降りた駅名なんて見ずに。
降りた駅の周辺は山に囲まれていて建物は少なかった。
廃れた場所というのだろうか人気は無い。
今にも倒れそうな錆びたバス停の前でバスを待つ。
彼は面白い話をしてくれた。最寄りの駅に降りようとしたら寝ぼけて反対方向のドアに立って手乗遅れた話、沼にハマったおじいちゃんを助けようとしたら結局彼も沼にハマった話等日常的な話をしてくれた。お陰で道中は退屈に過ごさず済んだ。何度、彼の話に笑ったことだろう。
すると、着いたのかバスが止まる。降りて駐車場を見てみるとちらほら車が止まっていた。
それでも賑わっている様子はなく辺りはシーンと静まり返っていた。
「ここはね、小さい時来たんだ〜!久しぶりだから超楽しみ!」
ルンルンで駆け出す彼。まずはジェットコースターに乗ろうという話になりジェットコースターの乗り場に行った。
一般的なジェットコースターでなんともなく乗車したがあちらこちらに錆びている所があるのを見て一気に血の気が引いたのも言うまでもない。
その後、コーヒーカップ等に乗り満喫した私達。
一旦ベンチに座って休憩する。
「コーヒーカップ回しすぎだってば笑」
「いやいや回してたのそっちじゃん笑」
「えー、嘘だ笑絶対そっちだって笑」
「まじウケる笑」
コーヒーカップに乗った時にどちらが早く回してたがで笑い合う私達。こんな日々が続けばいいのにと思った。
「あ、ねぇ、あのさ、最後に観覧車乗ってもいい?」
「全然いいよ」
彼は初めて今日少し寂しそうな表情をした。
係の人をブザーで呼び出して来る間これまでの彼の表情をよく考えていたらあっという間に係の人は来ていた。
「ここの観覧車はね、1番上になると景色がとっても綺麗なんだよ」
観覧車の中は狭く暑かった、まるで今この世界に2人だけしかいないような気がした。
「ごめんね、急に声掛けて連れ回して」
悲しい表情の彼が私に謝る。初対面の時には想像できない顔だった。
「全然いいよ。私も息抜きしたかったし!」
「それならよかった。」
「ほんとにありがとう、君は優しいね」
そう私が言うと彼は少し微笑んで私の目を見つめた。
何故だか目を逸らせなかった。
「俺の過去の話を聞いてくれる?」そう言って
彼は沈んでいく夕日を眺めていた。
彼は話してくれた。今までの過去を。父親は不明で母親は彼を産んで亡くなったらしい。親戚からは煙たがられ仕舞いには「死神」だと言われていたそうだ。彼には大学生のお兄さんがいて、いつも仲良く過ごしていたみたいだ。お兄さんは大学生で学業とバイトの両立をしていた。尊敬できるお兄さんで幸い両親が残したお金でギリギリの生活でも楽しく生きていたそうだ。そんな時ある大問題が彼ら兄弟の仲を引き裂くこととなった。
彼は小学生からずっといじめられていた。ついにいじめに我慢できなくなったのか中2の秋全校生徒の前でいじめっ子を殴った。勿論みんなが見ているのだから色々学校の中で大問題となった。それが引き金となり兄と初めての喧嘩をしたらしい。かなり大きな喧嘩で怒った彼がマンションから飛び出して出ていったそうだ。お兄さんはバイトを休み無我夢中で彼を探した。街がオレンジ色に染まる時、横断歩道の反対側にいた彼の元に青信号になって駆け寄ろうとした時お兄さんは飲酒運転の車に轢かれたそうだ。
「死神の俺は優しくなんかないんだよ。だから、ほんとは君を連れて一緒に死のうと思ってた。電車に乗った時制服姿で生きた目をしていない君を見つけた時同じ匂いのする人間だと思ったよ。この人なら賛同してくれるんじゃないかって、思ってたけど君は優しいと言ってくれた。そんな君をこんな俺と死なせる訳にはいかないなんて思ったんだ。」
「軽蔑してくれて構わない。こんな俺なんて生まれてこなければ良かったのかも。ありがとう。俺に優しいと言ってくれて」
私は過去の彼の話と今の思いを伝えられたときなんと声をかけたらいいのか分からなかった。
普通なら否定するだろう。あなたはそんな存在じゃないとでもそんな無責任な発言できなかった。なぜなら、私がそれで苦しんできたからだ。兄弟の世話に明け暮れて女子高生らしさなんてなかった。頑張って時間作ったら幸せになれるだなんて何度も言われたがそんな根性論の中で私は足掻いた。くるしかった。きつかった。だからわたしはかれに言えなかった。
ついに一番上まできたが、外の美しい景色と裏腹に観覧車の中はどす黒い幕で覆われたみたいだった。彼に投げかける言葉を探そうとするが見つからない。そんな中彼は観覧車の上に乗る、まるで夕日を抱くかのように胸に手を抑えて飛び降りようとした瞬間私はようやく彼にかける言葉を見つけて叫んだ。
「一緒に逃げよう!!」
「どんなに辛いことがあってもいい!私が貴方の過去の半分を一緒に担う!生きる理由がないなら私の為に生きて!!」
そう思いっきり叫んで彼の手を握る。
大丈夫…一緒に生きて死のう。
ピーターパンの少年 秋風夕顔 @choannn
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